「はーい、始めるわよ撮影。
最初はポーズ指定させて貰うけど、後は自由に動いてね」


最初に指定されたポーズは、瀬川が私の腰に右腕を回し、左手で私の左手を握る、というポーズだった。


まるで中世の貴族のようなポーズだ。


「んー、もう少し近付いて」


距離があると不自然だから、と智花は容赦ない。


近い距離に辟易しながら、無理やり笑顔を作る。


時々左肩が触れるたびに、ぴくりと反応してしまう。


バカ。何をそんなに意識してんの。


あああーーーっ!思い出すな!
瀬川との、キスなんてっ、思い出すな!


「いい感じよー!
オッケー、じゃあポーズ変えてみて」


そう言われても、と私は固まった。


ポーズってなに?
ピースしか思いつかないんだけど。


ああでも、どうにかして瀬川から離れたポーズに…。


思考するばかりで何も動けずに居ると、瀬川が不意に腰に回っている手に力を入れた。


正面から向き合い、ばっちり目が会う。


「ちょ、なにっ?」


あまりの至近距離に、私の頬には一気に熱が集まる。


「何って、ポーズだよ」


私の顎に手をかけ、瀬川は妖しく微笑んだ。


やめてよ、そんな笑顔でこっち見ないでよ。


そんな熱のこもった目で、愛しい人を見るような目で、私を見ないで。


「なにも、こんなポーズじゃなくても…っ」


「いいっ、いいわよ!
そのままちょっとキープ!
こら遥!抵抗しないの!」


嘘でしょ、と目を剥く。
そういえば、智花は観賞派のトップと言ってもいい人物。ファンクラブなどに流れている瀬川の写真は、ほぼ彼女が撮っているらしい。


そんな彼女が、堂々と瀬川を撮れるこのチャンスを見逃すわけはない。


しかも普段学校では見せない色気たっぷりフェロモンだだもれの表情ときたもんだ、このポーズで止められるのも納得…、いや出来ないわ。


お願い神様、一刻も早く解放して。


時が経つにつれて、バキバキと音を立てて鍵が壊れていく。