その日は散々だった。
家に帰ると、笑顔の瀬川が玄関に仁王立ちしていた。(その笑顔の怖いこと!)
そのまま腕を引っ張られ、ソファに雪崩れ込む。
私を横抱きにした瀬川は、笑顔を崩さないまま言った。
「ねぇ、劇の練習しない?」
「へ?」
思わず拍子抜けする。
瀬川の笑顔には黒い何かが見え隠れしていて、絶対何かヤバいことをさせられると身構えていたのに、劇の練習とは平和なことだ。
まぁいい、とりあえず平和に越したことはない、と頷く。
「でも私、セリフとか全然…」
「安心して。遥のセリフはないシーンだから」
なんだか、嫌な予感がする。
白雪姫で姫のセリフがないシーンと言えば…
「キスシーンの練習がしたいんだ」
やっぱりね!!そうだと思ったよ!!
「な、他のシーンは、ないの?」
「どうしてもキスした後のセリフが覚えられなくてさ。一連の流れを練習したいんだよね」
瀬川の笑顔には有無を言わせない圧力があり、私はコクコクと頷いた。

