瀬川の後に私もお風呂に入り、リビングへ戻ると瀬川がテレビを見ていた。


私も好きな番組だったので、瀬川の隣に座る。


「髪乾かさないと風邪ひくよ」


「えー、大丈夫だよ」


「めんどくさがらないの、しょうがないなぁ」


瀬川はおもむろに立ち上がると、ドライヤーを持って戻ってきた。


「ほら、前向いて」


大きな風の音が響き、大きな掌が頭に触れる。


「えっ、ちょっと、なに!?」


「何、って。
めんどくさいんでしょ?」


「いいよっ、自分でやる」


「いいからいいから」


そう言われても、髪や頭を触られて平気で居られる訳がない…、筈なのだが、瀬川の手つきは丁寧で、とても心地が良い。


まぁ、いいか…、今日だけ甘えても。


心地よい手つきに、とろりとろりと眠気と戦っていると、風の音が止んだ。


「はい、オッケー」


「ん、ありがとう…」


「……っ」


不意に、瀬川が私の目の前に立ちふさがる。


「何?テレビ見えないよ」


瀬川はいきなり私を挟むようにして背もたれに肘をついた。


顔が一気に近付いて私は思いっきり仰け反る。


顔がどんどん熱くなっていき、思いっきり顔を逸らした。


「ちょっ、なに!?」


「遥ってさぁ、本当に拓海と仲良いよね」


「…え?まぁ仲良いけど…」


ちらりと横目で伺うと、瀬川は怒ったような顔をしていた。


それでもキレイな顔。
これだからイケメンはずるい。


「なんだよ、昔は俺だけだったのに…」


「え?」


瀬川がぼそぼそと呟く。
小さな声で、私はなにも聞き取れなかった。


「ムカつく」


瀬川の顔が近付いてきて、私は危険を察知し唇を手で覆った。


瀬川はやはりキスする気だったらしい、思いっきり顔をしかめる。


「へぇ、そういうことするんだ」


ああ、なんだかすごくすごくマズイことをしたかもしれない。瀬川の顔がどんどん妖しくなっていく。


「…ひゃっ!」


瀬川が首筋に顔を埋め、つつつ、と舌を這わせた。


「……んっ」


自分の声とは思えない声が出て、ひどく焦る。


力が抜けて、くすぐったくて、唇を隠すことを諦め、瀬川を押し返した。
瀬川はびくともしなくて、でも力も入らない。


「もっ、やめっ……!」


ありったけの力で抵抗して、やっと瀬川は離れていく。


「顔、真っ赤だよ?」


「誰のせいだと…っ」


「へぇ、俺のせいで顔赤くしてんだ。
かーわいい」


完全にからかっている。
私の反応を見て面白がっている。


「うるさい、離れろ……!」


「んー、もうちょっと」


そう言うと、瀬川は本当にキスをした。


力が抜けていた私は、抵抗もままならない。


「…んぅ!」


息が苦しくなって、瀬川の胸を叩く。


最後にペロリと私の唇を舐めて、瀬川は離れていった。


はぁはぁ、と肩で息をする私を見下ろして、瀬川は微笑んだ。


「鼻で息するんだよ?」


「あんたはこういうの慣れてるかもしれないけどっ!私は慣れてないの!
だからもうやめてよ!」


「無理だよ、言ったじゃん。
俺のこと好きにさせるって。
実際今、何も考えられないだろ?
そのまま俺だけでいっぱいになればいい」


瀬川は私としっかり目を合わせた。


漆黒の瞳が私を見つめている。


綺麗だ、と思った。


「ごめん、もう我慢出来ない」


「なっ、昨日までは普通だったのに」


「だって思い知っちゃったんだもん。
うかうかしてると他の男に取られちゃうって。さっさと俺のものになってよ」


口調はとても優しいけれど、言っていることはとんでもなくぶっ飛んでいる。


「もういいっ、分かったから、離れて!」