「演目は、『白雪姫』だ!」


先生が言ったこのセリフに、皆が思わず吹いたのは言うまでもない。
(だってあのいかつい見た目で白雪姫、って。あー、思い出すだけで笑える)


演目まで勝手に決め気合十分の先生に反論する者もおらず、私達は劇を演じることとなった。


「王子様役やりたい人ー?」


会議の進行を務める委員長の声が虚しく響く。


それもそうだ、このクラスには本物の「王子様」が居るのだから。


その王子様を差し置いて王子様役をやろうなど、その後の女子の反応を考えただけで震え上がる。


現に演劇部の男子も我関せずで、完全に会議は硬直状態に陥った。


「誰も居ない?
じゃあ、お姫様役やりたい人は?」


こちらも、手を挙げる勇者は居ない。


あちらこちらで〇〇ちゃんやりなよー、とくだらない推薦合戦が行われている。


(彼女達は本気で推薦する気などさらさらなく、自分が推薦されるのを今か今かと待っているのだ。わぁ途方もない心理戦だこと)


「遥やりなよー。
スタイルいいし、ドレス似合いそう」


「いや、やめとく。
私がやったら完全にネタだわ」


本気でお姫様役に興味がないのはおそらく私だけで、普段瀬川を「観賞用」だと割り切る一派も、今回はお姫様役を狙っているらしい。


彼女達は、瀬川の恋人になることを望まず、ただひたすら鑑賞(という名の盗撮)を楽しむ一派だ。


瀬川の余りの王子様っぷりに、早々彼女になることを諦めたらしい。
この学校の多くはこの一派だそうだ。


(ちなみに彼女達は高性能でコンパクトなデジカメを持ち歩いていたりする。奈々もこの一派だ。スマホ派らしいけど)


「そーだそーだ、こいつがドレス着た姿とか見たくもないわ」


隣の拓海が追随する。


心底ムカつくが、ここは素直に乗っておくのが得策だろう。


「……ま、そういうこと。
お姫様役はもっと女の子らしい子がいいよ」


そっかぁ、と興味を失ったように、声をかけてきた女の子は前を向いた。


きっと最初から私を推薦する気などさらさらないのだろう。


「もう、いつまでやんのコレ。
あんたいっそのことお姫様役やりなさいよ」


私がそう言うと、拓海は大げさに肩を竦めた。


「馬鹿じゃねーの。
俺が女装したら美しすぎて遥が可哀想だから遠慮しとくわ」


「ハイハイ、ソーデスカ」


はぁ、と大げさにため息をついたところで、松岡先生が声を張り上げる。


「全員平等に、くじ引きで決めろ!」