思えばもう当たり前のことだった。
見えないところに傷をつくって帰ってくるのも、クラス中の人から無視されるのも。

私は佐々木萌(ささきもえ)。高1の夏から、私はクラスの中心グループの子たちからいじめを受けてきた。もう3ヶ月になる。今はもう11月。最初は飽きたら終わるだろうって耐えてた…でも終わるどころかいじめはエスカレートするいっぽうで。誰も助けてくれなくて、助けを求める勇気も無くて、ただただ下を向いている毎日。
今日も朝起きて、1番に思うのは、〈学校に行きたくない。〉…。だけど、お母さんに心配かけたくないし、行くしかない。
学校に着いて、下駄箱をおそるおそる開けると、中には何も入っていなかった。…上履きも。
きっと誰かが隠したんだろうなぁ。探さなきゃ…。
1時間目の授業はサボって、とにかく上履きを探す。でも、どこにもない…。涙腺が緩んできて、今にも泣きそうになる。
あぁ、やっぱダメだな…私。
どうしようもない涙をどうにかしたくて、屋上へ向かう。
古くなって誰も開けない扉をギィィと開けると、そこには青い空が広がっていた。誰もいない…ここでなら思いっきり泣ける。
床に大の字で寝っ転がって、涙でぼやけた空を見る。雲ひとつなくて、憎たらしいほど綺麗な青い空を。
「はは、綺麗だね…。」
誰に言ってんだろ…返事なんか返ってくるわけないのに。
「綺麗だなー」
返事なんか……え⁈
驚いて起き上がると、そこには知らない男の子がいた。茶髪で、顔の形がとても整ってて、背が高い、いわゆるイケメンという分類の男子だ。
「えっ…と、誰…?」
「俺?俺はこの学校の2年!小野大和(おのやまと)!」
先輩だったんだ…。こんだけカッコよかったら1年の間でも噂になってるはずだけど…。
「なんで泣いてたんだ?」
「あっ!」
泣いてるのを見られたことを思い出して真っ赤になった。耳にまで熱があるのが分かる。
「な、泣いてないよ!」
涙を拭いながら全否定した。
すると、小野君は少し悲しそうな顔をして、その後すぐに柔らかな笑顔になって
「無理…しなくていいんだぞ。ここには俺以外誰もいないから。」
小野君のその一言に、私は涙が頬をつたうのを感じた。“無理しなくていい”その言葉がずっと欲しかった。誰かに頼りたかった。気付いた時には小野君の胸の中で泣いていた。
泣き終わると、なんとも言えない沈黙が流れた。
…気まずい。泣いた後だとどう接すればいいか分からない。
『えっと』
何か喋ろうと声を出したら、小野君の声と重なってしまった。顔をみ合わせて思わず吹き出す。
「良かった。やっと笑った!」
小野君は笑顔で言った。その無邪気な笑顔がよく似合う。
「俺のことは大和って呼んでくれな!」
「私は佐々木萌。萌って呼んで」
「よろしく!」
大和の笑顔に、心臓がドキッとした。なんだか顔があっつい…。もしかして…いや、それはないよ。