妹の恋人[完]

でも、目の前で俺の姿を見て、高橋さんへの気持ちを忘れられずにいやな態度しか取れなかったんだという高橋ワタルは、深々と頭を下げて俺に謝った。

「悪かったと思っているけど、俺はサトミのことが好きなんだ」

だから、今はまだお前の存在を素直に認められない。高橋ワタルは俺の眼を見てはっきりとそういった。

「俺は・・・俺も、高橋さんのことが好きだけど、付き合っているわけじゃないよ」

手を繋いだのもあの時だけで。

部活で忙しくて、なかなかゆっくり会うこともなく、今だに携帯番号すら交換していない。

これってどういう関係?ただの友達?

もともと友達付き合いが得意ではない俺は、頻繁に連絡を取り合っている友達もいなければ毎日一緒に過ごすような友達もいない。

大野君とは今でも時々電話で話をするけど、もう随分と会ってはいなかった。

学校ではそれなりに楽しくクラスの男子と話をするけど、部活があるのでその後の約束をしたこともなければ、部活のメンバーともそれほど深い付き合いをしていなかった。

それは中学の時も同じで、あの頃は学校と部活、塾と家だけが俺のすべてで。

すべてに一生懸命で、家ではカナコと過ごすことだけが楽しみだったし。

「そっか」

付き合っていないという俺の言葉に、高橋ワタルは外を見てため息をついた。

「サトミに電話でもしてあげてよ。きっと待ってるから」

じゃ、授業始まるから行くよ。そう告げると、おれのほうを振り返ることなく教室へと戻って行った。