「え、なに?何買ってくれるの?」

とたんに笑顔になったカナコに、俺は目的地を告げずに車を走らせた。

俺が高校に入学した時に、父さんに入学祝で買ってもらったのは携帯電話で。

周りの子が中学入学で買ってもらっていた携帯電話を、ずっと我慢していたカナコ。

夕べ、寝る前に父さんにお金を渡され、カナコに買ってやってほしいと頼まれていた。

「え、もっと早く一緒に買いに行けばよかったのに」

「まあ、カナコのことだから、俺たちを見送った後ずっと泣いているだろう。元気付けるためにも帰りに寄ってやってほしい」

そんな父さんの気持ちを、俺もよくわかっていて。

父さんに言われなかったら、俺がどこかへ遊びに連れて行くつもりだった。

「ねーねー、どこ行くの?」

すっかり元気になったカナコは、さっきまで泣いていたとは思えないくらい笑顔で。

俺の顔を見ながらも、周りの景色から行き先を想像してはしゃいでいた。

俺は何も言わずに目的地に着きゆっくりと車を駐車場へ滑らせる。

「え、うそ!携帯電話!?」