妹の恋人[完]

てっきり母さんは知っているものだとばかり思っていた。

「あの子、夏の大会が終わってから体力作りだとか言って、あれこれ試しているみたいなのよ」

朝走るのもその一環なんだろうか。

「コウヘイと違って、成績はまあ平均点だけど、体力だけは有り余っているからねぇ」

ばたばたと階段を降りてきたカナコが、玄関で靴をはきながらきゃあきゃあ騒いでいて。

あわてて母さんも玄関へ行くと、どうやら靴をはこうと思って転んだらしくて。

「もう、カナコ落ち着きなさい!」

「やだ、遅刻しちゃうもん!行ってきます!」

ばたん、と玄関のしまる音がして、行ってらっしゃいの言葉も掛けることができなかった。

「ははは。本当有り余っているな」

そんな姿を見ながら、幸せそうに笑う父さん。

「毎日こんな感じだよ」

いつもは誰よりも早く家を出て、誰よりも遅く帰宅していた父さん。

こんな日常の風景も珍しく映るらしくて。

今はこんな風に笑っているけど、毎日こんな姿を見ていたら怒れてくるんじゃないだろうか。

「じゃあ、そろそろ父さんも仕事へ行くかな?」