久しぶりの教室は、ほんの少しかび臭くて、なんだか懐かしかった。
 長かったようであっという間に過ぎ去った夏休み。始業式から戻ってきたわたしは、窓際の席で固まって座る友人たちの輪に近づいた。

「あ〜、おかえり、咲(えみ)」
「ただいま」

 こっちを向いて笑顔を浮かべる香織(かおり)に、わたしは軽く相槌を打って空いている真正面の自分の席に座った。
 まだまだ夏服が大活躍の蒸し暑い気温、香織の白シャツの襟からきらりと覗かせるシルバーのそれを何となく見つめていると、得意げな顔の香織が口を開く。

「んふふ、気づいちゃった? これ、誕生日にタクがプレゼントしてくれたんだあ」
「愛美いいな〜。そのブランドって結構高いのに。彼氏頑張ったね」
「そうそう、あたしも夏休み彼氏と旅行行ったんだけどさ……」

 香織とわたしの席に集まっていた他のみんなが羨ましいと口々に言うと、次に夏休みの思い出を振り返るように全員が順番に話し始めた。

「へえ。そうなんだ」

 わたしは聞く側に徹する。べつに友達がいなくて寂しい日々を過ごしていた、と言うわけではない。香織とは頻繁に遊んでいたし、バイトもしていたから暇な日はなかった。

 ーーただ、


「もう、咲ってば。あたしらの話聞いてくれるのは嬉しいけど、あんたは何かないの?」
「えー。何かって?」
「だから、彼氏とかそういう話。咲の恋話とか全然聞いたことなくない?」


 興味津々といった顔で尋ねてくる友達に、ああ、また始まったと、わたしは心の中で小さなため息を落とした。