「み、瑞希お兄ちゃん!?なにをー?」
「ほらな?」
車の外に出て、彼に手を引かれ、助手席を通り過ぎようとした時だった。
そこに座っている人に、そう言われたのは。
「すぐ戻ってくるって言っただろう?」
「烈司さん・・・・」
「うるせぇ!!」
クスと笑う色男に、正面を向いたままの瑞希お兄ちゃんが怒鳴る。
それに合わせて、私の腕をつかむ力がグッと強くなる。
ミーン、ミーン、ミンミーン。
(あつい・・・・)
あついのは、照りつける夏の日差しのせいだけじゃない。
私をこがすのは、ただ1人の男だけ。
引っ張られ、そのまま石の階段へと進む。
無言で従っていれば、私を見ることなく彼は言った。
「俺を許さないでくれ、凛。」
「え?」
石段に足を置いた時、ハッキリと言われた。
「アキナが凛を狙ったのは、俺への復讐のためだ。」
「復讐・・・・」
ミンミンミーン。
セミの声がうるさい。
大事な話が始まりそうなの。
お願い、静かにして。
「九條アキナは、陽翔と同じ年の女の子で、同じ東山高校の後輩なんだ。」
「え!?じゃあ、瑞希お兄ちゃんの後輩でもあり、カンナさん達から見れば先輩なんですか?」
「ああ。陽翔は・・・俺の追っかけみたいなことをやってて・・・高校も、俺がいるから東山高校を選んだ。アキナとは、女のダチを通して知り合って、それで・・・」
「そうなんですか・・・」
気になる・・・・
「伊吹陽翔さんは、どういった経緯で亡くなったんですか?」
「痛いところから聞くな?」
「あ・・・」
そう言ったら、私をつかむ腕の力がゆるくなる。
離されるかと思ったら、力の加減が変わっただけだった。
「陽翔の死は―――――話したら、一言で終わるようなどこにでもある話だよ。だけど―――」
再び強くつかまれた時、その答えは返ってくる。
「まだ・・・俺の口から凛には言えない。」
「・・・はい。」
彼の言葉で理解する。
(それだけ、心の傷が深いの・・・?)
伊吹陽翔さんを失ったショックが大きいの?
だから話せないのだと言うの?
(全国ナンバーワンの最強暴走族の総長と言われた真田瑞希に、それほどの深手を負わせた出来事だったというの?)
戸惑う私をよそに、瑞希お兄ちゃんの話は続く。


