高校の入学式の日、えらそうな人が言っていた。
──高校の三年間なんてあっという間に過ぎてしまいます──
確かにその通りだな、輝空との隣を歩きながら振り返ってみた。

「じゃぁ、俺、これ出さなきゃだから……」

輝空はさっき書き終えた原稿用紙をヒラヒラと、わたしに見せる。

「うん……わざわざ玄関まで見送ってくれてありがとね」

「まぁ俺、紳士だからさ」

わたしは、調子のんなー。と、輝空の足元を触れる程度に蹴った。

“じゃあな”
“うん、ばいばい”

最後の言葉が心に直接、響いて聞こえた。
去っていく輝空の背中、遠くなる姿。さようなら。

わたしは目をつむり息を吸って……

「……輝空‼」

わたしの目には振り返る輝空の姿がうつる。

「最後に聞きたかったことがあるの‼」

輝空は黙ってこちらを見ていた。

「初めて会った時、どうしてわたしの名前を知っていたの──……ッ」

長い廊下の端から端まで聞こえるくらい最大音量で問うわたしに輝空は

「お前怒りそうだから言わない──……‼」

遠くで苦いような、照れたような微笑み方をしている。
意味わからないよー‼と、返事を返しても、他に聞きたいことは?と、叫ぶだけ。

他に?他に聞きたいこと……?

「……わたしたち……仲直り、出来たんだよね……ッ」

巡って出てきた過呼吸にでもなってしまいそうなこの気持ちに

「喧嘩なんかしてねーだろ?」

そう答えて、笑ってくれたんだ。