緊張で下ばかり見る自分に後悔しつつも、なかなか前を……輝空を見れない。
詰まりそうな会話に今にも出てきそうな涙……

肝心な時に弱気になってしまう自分には前から愛想が尽きていたでしょう?
自分に言い聞かせ、顔をあげてまっすぐに輝空を見る。

「ずっと話が……したかったんだよ」

目の前にいる輝空は、いきなり飛び出たわたしの言葉に少し驚いて笑った。



それから、わたしと輝空は何もなかったかのように他愛のない話をした。別れてからの、わたしの知らなかった輝空を教えてくれた。

「ごめんな、甲子園がどーこー言ってたくせに、結局……」

作文用紙に合格体験記を書きながら申し訳なさそうに言う輝空にわたしは、まったくだ‼ウソツキめ。と、意地悪くニシシッと笑い、嘘だよ。と輝空に言った。

「輝空が頑張れたんだったら甲子園なんて、関係ないよ」

輝空はシャーペンを動かす手を止めてほんの数秒、わたしを見つめてから……
「お前の台詞はくさい‼」と、わたしの頭をクシャっと撫でて乱した。

懐かしい感覚。こんなことはもう、ないと思っていた。
涙は出そうだけど、足は震えていない。きっと、もう大丈夫。

わたしたちは、荷物をまとめて進路室を出た。