階段の一段一段が最後を感じさせる。

大切なものはいつも後になって愛しくなる。わたしは欲張りで、目の前には幸せが広がっているのに過去ばかり引きずる。
他人から見たら、重たい女だと思われるかもしれない。

でも、過去が眩しすぎるんだ。想い出が優しすぎる。
本当にスキだったよ、愛しかったよ。

思い通りに進んでくれない世の中が淋しくて、自分から目の前に線を引いた。これ以上スキにならないように。忘れよう、忘れなきゃって。

でも本当は、線を飛び越えて君の所へ行きたかった。また、手を繋いで欲しかった。
わたしたちは不器用だから、仲直りの仕方がわからなかったんだ。

もう、手を繋ぐことはないね。君が繋いでくれた右手、違う人と繋ぐ気持ちにはなれないよ。
でも、ちゃんと前を向かなきゃいけないってわかってる。

冷たい手、優しい気持ち、声、背中。その全部が──……
キラキラした思い出は一生心に残しておくから。



「咲、ひとつだけ……まだ行ってない場所があった……」

最後に一度だけ、笑ってサヨナラさせて?