ミンミンと蝉が鳴く夏。どこまでも高く、入道雲。

高校二年の夏、距離を置いて泣いていたね。君がいない、と泣いた。
会いたいし愛したい。でも、次に出会ったら終わりだとわかっていた。

こんなに心底、誰かを愛したのは初めてで。世界で一番だ、とあのころはそんな気がしたよ。

そこまで言ったら他人には大げさだと思われるだろうし、わたしだって今だったら当時は単純だったと笑えるよ。

でもね、単純なりに君が大切でした。
あの夏が今では愛おしく感じるよ──……


輝空が走った後、試合の結果は空に消えて。輝空は、ホームへ戻ることなく高校野球を引退した。


──……あと一年しかないんだ。

花火・ホタルの光の中・学校裏の公園の遊具や噴水・日本史の時間・お宮の二人乗りブランコ・わたしの家の近くのコンビニ。

夢の中、心の中。想い出がつまりすぎて思い出すのが切なくなるよ。わたしの居場所は、いつも輝空の左手の中だったから。


どんな出会いにも、いつかは別れがくるってわかってるのに。後悔を繰り返して誰かを好きになっちゃうのは何でだろうね

会えてよかったって思うのはだいぶ時間がかかる事で。

出会わなければよかった。
初めはそう思ったけど、出会わなければ知ることの出来なかった気持ちもあるから。やっぱり、出会えてよかったよ。

「お疲れさま」の言葉の代わりに、涙がこぼれて止まらない。

ほんと、困った話だ。


試合の終った観客席を一周、歩いた。
バックネット裏、輝空は今までこんな風景を見ていたんだ。

そう思いながら涙で前の見えないわたしは、寧音に手を引いてもらいながらその場を後にした。

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