空高く、舞い上がれっ。

指切り、そして──

『甲子園絶対につれて行くから見てろな?』

あの白い雪の中での言葉が頭をよぎった。

何も言えず立ち尽くすわたしの、スカートを握りしめる手が汗ばむ。勇気を出さなくては……

「……そ」
「おーい、輝空‼」

わたしが口にしようとした名前を遠くから野球部らしき誰かが先に呼んだ。

「おー、今行く」

返事をして、わたしに振り向かずにそのまま行ってしまおうとした輝空の肩に吊されたエナメルのバッグ。
いつのまにか、わたしはそれを引っ張り輝空を引き留めていた。

「ん?」

「今日……さ」

会えないかな?

昨日、配られた夏休みの予定表には全部活の予定が書き出されていて。野球部の欄を見たら、今日が終わってしまうと一ヶ月は輝空に会う事は出来なくなることを知っていた。
恐くて、足がガクガクと震える。

わたしたちの横を通り過ぎる人たち。
駐輪場から走り去るバイクの音。

「……ごめん、今日は野球部の打ち上げだから無理」

一瞬が長く感じた。

「……そか」

軽く手をあげて走り去る輝空。立ち尽くすわたしは燃え終えた後に舞う灰のよう。
力が抜けたわたしは、その背中が見えなくなってからしゃがみこんで立てなくなった。


結局、輝空と会うチャンスもなくなってしまった。

どんなにわたしが悲しくても、空は青くて嫌になる。