「……え?」

今、なんて言ったの?

疑問を顔に浮かべているわたしに、輝空くんは言葉を続ける。

「……あれは、昔好きだった野球部のマネージャー」

頭を掻きながら苦そうな顔で笑う輝空くんはぎこちない。


小学3年生の時に地元の野球チームに入団し、本格的に野球を始めて。その後、中学校へ進学して野球部に入部した。
と、いつだかの授業中に輝空くんが言っていたことを思い出した。

「……じゃあ、元カノってこと?」

わたしがそう言うと、少し悲しそうな目をした輝空くん。

「……付き合ってもないよ。俺の片想いだった」

“片想い”の響きがわたしの胸の奥を突き刺す。
輝空くんの過去の想いを知ってしまったから、ということもあるけど。今のわたしと同じつらさを感じ取って苦しくなった。


「告白することも、振られることも出来ないまま……あっちが卒業して。俺が高校に入学してからも……」

正直、引きずってたよ。

輝空くんの気持ちの強さがそこにあって、入り込めない世界を感じわたしは目線を下げて冷たくなった自分の指先を眺めていた。

「でも、いつからか先輩のことを想うことも少なくなった」

いつの間に、ふっ切れたのかな。と、顔を上げた輝空くんは遠くを見つめてどことなく笑っていた。