空高く、舞い上がれっ。

忘れなきゃいけない。
そう思っていたわたしには、寧音の話をしないことが化膿止めの薬のような役割があるような気がした。

今にも血が溢れ出てきそうな状態なのに、名前を口にしたらもっと傷が膿んでしまいそうで怖くて。
呼びたいけど、呼ばれたいけど……これ以上はイケナイ。と無理矢理、線を引くことしかこの時のわたしには出来なかった。

わたしの状況を知っているのは、寧音と尊と譲治、そして咲だけだった……はず。
それ以外の人に話してもいないし、4人が他人にしゃべるなんてことはないと思っていた。

だから……

「生きてる?」

わたしの顔を見て「失恋したの?」と、視聴覚室で行われている委員長会議の最中(さなか)、爆弾発言をしてきた隣に座る男。
はぁ!?と、わたしは思いきり睨みをきかせてしまった。

「なんか最近顔が死んでるじゃん」

同じクラスの委員長同士だけど、今までろくに言葉を交わしたこともなかったのでわたしは返事も返さず手元のプリントに目をやる。
向こうもそれに対して何も気にしてないようだったから、それ以外の会話をすることもなかった。