【桜井実華】
望のことは本当にわからない。
何が原因で元気をなくしたのか。突然だったため、誰も知ることができなかった謎なのだ。家族の誰一人も知らないことなのだ。
私が学校で話せる人と言ったら、赤坂しかいなかった。
元々友達だった子達はみんな離れてしまった。それは私が女王様と言われ出してから。
一人、二人と離れていき、終いには私一人になってしまった。
だけど赤坂だけとは話せたんだ。だから相談にだって乗ってもらうし、一緒にお弁当を食べもする。私にとって特別な存在なんだ。
別にそんな変な感情は抱いていないし、なんだろう、なんかその、不思議な相手。とにかく大切な人。
お弁当を食べ終えて、屋上の扉を開ける。
「うわっ!」
そこには少し小柄な女の子が立っていた。いったい誰?
「あ、えと、私、高一の谷口愛佳です!!」
深々とお辞儀をするとなかなか頭をあげない。その姿が面白くてクスクスと笑っていると、顔だけこちらに向けてきた。
「私は高三の桜井実華。どうしてここにいるの?」
一応私も自己紹介してみた。この子とはなんだか話せる気がする。
「じ、実は……あの、その……」
目線が地面をさまよっていた。動揺してるみたい。
「カフェでお話する?」
私が誘ってみると、満面の笑みで「はい!」と返してくれた。可愛い後輩だな。
いつも放課後に行っているカフェにやってきた。このカフェは学校のすぐそばにあるからすぐに行ける。
女の子はワクワクしたような笑顔で私を見つめていた。
「桜井先輩ですよね?」
「うん。下の名前でいいよ」
「ほんとですか!?」と目を輝かして言う姿がとても可愛い。
私はいつものブラックのコーヒーを頼む。意外と甘いのが苦手な私は、ブラックは相棒と言ってもいいほど飲んできた。
女の子はカフェラテを頼んでいた。私と真逆で甘いのが好きなのだろう。
私達は一番端の二人用のテーブルに向かった。そこに腰掛けると、すぐに女の子が口を開いた。
「わ、私のこと、愛佳って呼んでください!」
「え、いいの?」
「はい!全然いいですよ!」
愛佳は嬉しそうな顔でカフェラテを飲んだ。
ちょっと物足りなかったのか、ミルクをさらに追加してかき混ぜた。
「で、どうしたの?」
私が問いかけると、わかりやすくビクッと驚いた愛佳。
愛佳は、手に持っていたティーカップを優しくテーブルに置いた。
「さっき一緒にいた人って……彼氏ですか?」
顔を真っ赤にして愛佳は下を俯いた。
彼氏なわけないでしょう!?だから誤解を招くようなことはしないようにしてたのに!やっぱり誤解されちゃうか……
「彼氏なんかじゃないよ。ただの友達。」
必死に説明すると、愛佳は安心したかのように笑みを浮かべた。
「その友達はなんという人ですか?」
少し恥ずかしそうに笑う愛佳はとても可愛い。きっと友達もたくさんいて、モテて、私と真逆なんだろうな。
「赤坂優馬だよ。どうして?」
どうして名前を聞くのか気になり、問いかけてみるとまた下を俯いてしまった。
その耳は真っ赤に染まっていた。
「今朝からずっとあの人のことが頭から離れないんです……」
今朝からってもしかして!
少し小柄で二つ結びで前髪のない後輩…
愛佳じゃん!
さっき赤坂が言ってた面白いって子!確かに面白い。
「さっき赤坂が愛佳の話してたよ。面白い子だったって」
「本当ですか!?」
花が咲いたかのような笑顔で立ち上がる。「元気だね」と私がクスクス笑ってると「あっ」と照れ笑いしながら椅子に座り直した。
「もしかして……赤坂に一目惚れしちゃった?」
「そ、そんな!」
愛佳の目はうろついていて戸惑っているのがわかった。もしかして初恋なのかな。
「わからないんです。異様に胸が鳴って、全身熱いんです。そして頭の中に赤坂先輩の顔が残ってて。自分でもわからないんです。」
やっぱり恋を知らないみたい。それが恋なんだって気づけていない。教えてあげなきゃ。
「それは恋。恋だよ。」
「恋!?私……赤坂先輩に恋してるんですか?」
「そうとしか思えないよ。」
自分が恋をしているという現状に驚いたようで、ずっと口が開いたままの愛佳。初恋にここまで驚く人も初めて見たな。
「そうなんですか……頑張ります」
まるでドラマに出てくる子役のようなリアクションをする愛佳だが、それが本当のリアクションだということがすごいと思う。
「あ、実華先輩は赤坂先輩のこと好きじゃないんですか?」
どうしてそうなるかな。
遠慮気味に聞いてくるがそんなの必要なし。だって私は好きなわけじゃないから。
「好きじゃないよ。だから愛佳の応援係!」
私が笑顔で言うと愛佳も笑顔で喜んでくれた。
時が過ぎるのはあっという間で、もう夕方になってしまった。
夕日が沈んでいって、月が顔を覗かせようとしていた。
家の扉を開ければ元気なさそうなお母さんの姿が。
「どうしたの?お母さん」
「望が部屋にこもってて……」
お母さんはしゃもじを片手に持ったまま玄関に出てきた。
昨日のことで傷ついちゃったのかな……
「ちょっと様子見てくるね」
私はゆっくりと廊下を歩いた。
望には何か隠している気持ちがあるかもしれない。それを誰にも言えずに抱え込んでいるからストレスが溜まってるのかも。
ドアノブに手を掛けてゆっくりとドアを開けた。
望のことは本当にわからない。
何が原因で元気をなくしたのか。突然だったため、誰も知ることができなかった謎なのだ。家族の誰一人も知らないことなのだ。
私が学校で話せる人と言ったら、赤坂しかいなかった。
元々友達だった子達はみんな離れてしまった。それは私が女王様と言われ出してから。
一人、二人と離れていき、終いには私一人になってしまった。
だけど赤坂だけとは話せたんだ。だから相談にだって乗ってもらうし、一緒にお弁当を食べもする。私にとって特別な存在なんだ。
別にそんな変な感情は抱いていないし、なんだろう、なんかその、不思議な相手。とにかく大切な人。
お弁当を食べ終えて、屋上の扉を開ける。
「うわっ!」
そこには少し小柄な女の子が立っていた。いったい誰?
「あ、えと、私、高一の谷口愛佳です!!」
深々とお辞儀をするとなかなか頭をあげない。その姿が面白くてクスクスと笑っていると、顔だけこちらに向けてきた。
「私は高三の桜井実華。どうしてここにいるの?」
一応私も自己紹介してみた。この子とはなんだか話せる気がする。
「じ、実は……あの、その……」
目線が地面をさまよっていた。動揺してるみたい。
「カフェでお話する?」
私が誘ってみると、満面の笑みで「はい!」と返してくれた。可愛い後輩だな。
いつも放課後に行っているカフェにやってきた。このカフェは学校のすぐそばにあるからすぐに行ける。
女の子はワクワクしたような笑顔で私を見つめていた。
「桜井先輩ですよね?」
「うん。下の名前でいいよ」
「ほんとですか!?」と目を輝かして言う姿がとても可愛い。
私はいつものブラックのコーヒーを頼む。意外と甘いのが苦手な私は、ブラックは相棒と言ってもいいほど飲んできた。
女の子はカフェラテを頼んでいた。私と真逆で甘いのが好きなのだろう。
私達は一番端の二人用のテーブルに向かった。そこに腰掛けると、すぐに女の子が口を開いた。
「わ、私のこと、愛佳って呼んでください!」
「え、いいの?」
「はい!全然いいですよ!」
愛佳は嬉しそうな顔でカフェラテを飲んだ。
ちょっと物足りなかったのか、ミルクをさらに追加してかき混ぜた。
「で、どうしたの?」
私が問いかけると、わかりやすくビクッと驚いた愛佳。
愛佳は、手に持っていたティーカップを優しくテーブルに置いた。
「さっき一緒にいた人って……彼氏ですか?」
顔を真っ赤にして愛佳は下を俯いた。
彼氏なわけないでしょう!?だから誤解を招くようなことはしないようにしてたのに!やっぱり誤解されちゃうか……
「彼氏なんかじゃないよ。ただの友達。」
必死に説明すると、愛佳は安心したかのように笑みを浮かべた。
「その友達はなんという人ですか?」
少し恥ずかしそうに笑う愛佳はとても可愛い。きっと友達もたくさんいて、モテて、私と真逆なんだろうな。
「赤坂優馬だよ。どうして?」
どうして名前を聞くのか気になり、問いかけてみるとまた下を俯いてしまった。
その耳は真っ赤に染まっていた。
「今朝からずっとあの人のことが頭から離れないんです……」
今朝からってもしかして!
少し小柄で二つ結びで前髪のない後輩…
愛佳じゃん!
さっき赤坂が言ってた面白いって子!確かに面白い。
「さっき赤坂が愛佳の話してたよ。面白い子だったって」
「本当ですか!?」
花が咲いたかのような笑顔で立ち上がる。「元気だね」と私がクスクス笑ってると「あっ」と照れ笑いしながら椅子に座り直した。
「もしかして……赤坂に一目惚れしちゃった?」
「そ、そんな!」
愛佳の目はうろついていて戸惑っているのがわかった。もしかして初恋なのかな。
「わからないんです。異様に胸が鳴って、全身熱いんです。そして頭の中に赤坂先輩の顔が残ってて。自分でもわからないんです。」
やっぱり恋を知らないみたい。それが恋なんだって気づけていない。教えてあげなきゃ。
「それは恋。恋だよ。」
「恋!?私……赤坂先輩に恋してるんですか?」
「そうとしか思えないよ。」
自分が恋をしているという現状に驚いたようで、ずっと口が開いたままの愛佳。初恋にここまで驚く人も初めて見たな。
「そうなんですか……頑張ります」
まるでドラマに出てくる子役のようなリアクションをする愛佳だが、それが本当のリアクションだということがすごいと思う。
「あ、実華先輩は赤坂先輩のこと好きじゃないんですか?」
どうしてそうなるかな。
遠慮気味に聞いてくるがそんなの必要なし。だって私は好きなわけじゃないから。
「好きじゃないよ。だから愛佳の応援係!」
私が笑顔で言うと愛佳も笑顔で喜んでくれた。
時が過ぎるのはあっという間で、もう夕方になってしまった。
夕日が沈んでいって、月が顔を覗かせようとしていた。
家の扉を開ければ元気なさそうなお母さんの姿が。
「どうしたの?お母さん」
「望が部屋にこもってて……」
お母さんはしゃもじを片手に持ったまま玄関に出てきた。
昨日のことで傷ついちゃったのかな……
「ちょっと様子見てくるね」
私はゆっくりと廊下を歩いた。
望には何か隠している気持ちがあるかもしれない。それを誰にも言えずに抱え込んでいるからストレスが溜まってるのかも。
ドアノブに手を掛けてゆっくりとドアを開けた。