【赤坂優馬】
昨日から今日をずっと楽しみにしていた。なぜならお弁当だから!

桜井がお弁当を作ってくれると言うものだから、今日はパンも買っていない。

「はい、これ。早起きして作ったんだからね」
「ありがとう!」

桜井の手元には青い風呂敷で包まれた弁当箱があった。俺は大事にそれを受け取って開けてみた。

「うわ。めっちゃ美味しそう……」

思わずヨダレが垂れてきそうなほど美味しそうだった。

中身は、玉子焼き、サラダ、ハンバーグ、ウィンナー、おにぎり等がたくさん詰め込まれていた。まさに弁当って感じだ。

「食べてみて」

ウキウキした笑顔で桜井は言う。きっと自信作なんだろう。

俺は箸を持って玉子焼きをつまんで、そのまま口に運んだ。

「んーー!!美味しい!!」

本当に美味しすぎてほっぺたが落ちそうだ。

俺の反応を見て桜井は喜んでいる。

「頑張ってよかった」

ニコッと見せる笑顔は誰もの心を温かくする。俺はいつもその笑顔に元気付けられていた。

こんなお弁当食べたの久しぶりだ。本当に感動して涙が出そうだ。

「ねぇ、聞いてくれる?」

さっきとは真逆の悲しそうな顔で言った。あまりこんな顔は見たことがない。

「うん。どうした?」

ふーっと息を吐いて落ち着いた声で話し始めた。

「あのね、望が最近全く笑わないの。私の家の人は常に笑顔だったはずなのに、いつの間にか望だけが笑わなくなってた……何かあったのかな?」

きっと桜井は妹思いなんだ。たった一人の妹を大切にしている優しい姉なんだろう。俺の家の環境とは全く違う。

俺は弟思いになんてなれっこない。だって翔に嫌われているから。翔は俺のことを見下している。いや、それは翔だけじゃない、家族全員だ。そんな家庭で育っている俺には、桜井の悩みは全くわからない悩みだ。

「うーん。もしかしたら失恋でもしたんじゃないか?それか表情筋が柔らかくなくなったとか?」
「ふふ。絶対ありえない」

桜井は笑っていた。心の底から。
大笑いしていた。それにつられて俺も笑う。二人はゲラゲラと爆笑した。

「ちょっと気が楽になった。ありがとう」

桜井はニコッといつもの笑みを浮かべた。

「そういや」
俺はさっきのことを思い出した。あの変な女のこと。

「今朝うちの学校の女子が筆箱落として、それを俺が拾ってあげたんだけど、さっきお礼言いにきたわけ。そしたら勢いよくお辞儀するからバッグから中身全部出ちゃって。ほんと変わってる子もいるもんだよな」

話しているうちにだんだん思い出していく。見た目は普通なのに、中身はなかなかの天然っぷり。なんだか面白い子だったな。

「えー!大変!その子ってどんな子?」

大笑いしている桜井はやっぱり安心できる。

どんな子?どんな子だっけ……

「えーと……少し小柄で二つ結びの前髪ない子。後輩かな?」
「だと思うよ。そんな子見たことないもん。」

桜井はまだ笑っている。つられてしまうその笑い方は、晴れた大空へと響き渡る。

「じゃ、またね」
桜井はニコッと微笑んで屋上を出ていった。