【谷口愛佳】
私、谷口愛佳は虎の丘高校の一年生。

今年入ってきたごく普通の高校生。特に賢いわけでもないし、何かができるわけでもない。

そんな私谷口は、友達も少ないんです。だから登下校もいつもひとり。でもあまり気にしてない!自分が楽しければいいじゃないか。人生楽しいことばかりじゃないんだろうし。

今日もいつものように、鼻歌を口ずさみながら登校していた。

──トントン

「なにっ!?」

急に誰かに肩を叩かれて、つい変な声を出してしまった。恐る恐る後ろを振り向くと、そこには有名なあの元王様がいた。

「これ、落としましたよ」

彼の手元には、私の大切な筆箱があった。落としたんだ、私!なんて私はドジなんだ!

「あ、ありがとうございます!!」

私はぺこぺこと何度も頭を下げて礼を言い、逃げるように走り去った。

どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう!!
あの元王様に話しかけられちゃった!!!

落ち着け、と何度自分に命令しても言うことを聞かない。よくわからない感情がこみ上げてくる。

だってあの元王様だよ!?話しかけられるなんて!!


それからなぜか体の震えが止まらなかった。授業中は頭の中に元王様の顔が何度も浮かび上がってくるし、胸も異様にうるさく鳴る。

原因を考えてみよう。

私は今まで人から避けられてきたから、話しかけられたのが嬉しくて興奮しているのかもしれない。きっとそうだ。きっとそうなんだ。

なーんだ。すごく単純なことじゃない。悩むことなんてないさ。だから落ち着くんだ。

一人で問題を解決させて、上機嫌で廊下に出てみると、

「あ!!」

そこには元王様の姿が!!急がなきゃ。声かけるべきだよね?ちゃんとお礼言うべきだよね?

さっき落ち着けた気持ちはどこかに吹っ飛んでいってしまった。

「あの!!今朝はありがとうございました!!」

勢いよくお辞儀すると、チャックが開いたままのリュックから大量の教科書が飛び出した。

バカ!!!!ほんとドジ!!

「も、申し訳ありませぇぇえん!!」

私は今にも泣きそうな気持ちを抑えて、教科書を必死に拾った。

「ふふ。面白い子だね。」
「え?」

元王様が笑い出した。

「だって普通筆箱落としたら気づくし、お辞儀も深すぎて二次災害になるし。」

楽しそうにゲラゲラ笑う元王様は、本当に心から笑っているように見えた。こんな優しい笑い方をされたことなんて一度もない。

「ありがとうございます。」

私も嬉しくてニッコリ笑った。あ、名前とか聞いとこう。

「あの……」

しかし、気づいた頃には元王様の姿はなかった。周りをぐるぐる見渡して、どこかにいないか探したてみた。けど姿はない。

教室にはお弁当を広げる生徒達の姿が……

もうお昼なのか。早いな。

屋上ででもぼっち弁当しようかな。

少し寂しい気持ちになりながら、お弁当を持って一人で屋上の扉を開けた。

そこには確かに元王様の姿があった。でも隣には一人の女の子の姿が……

もしかして彼女!?

私は少し様子を見ることに。