【桜井実華】
朝はめざまし時計で起きる。色々試してみたけど、それが一番効果があった。

今日はいつもよりも早起き。だって赤坂のお弁当も作らなきゃならないだもん。それに関して別に問題はないけど。

キッチンに行くとさっそくお母さんがお弁当を作っていた。

「おはよう」

私がいることに気づき、一瞬びっくりしたような顔をしたけどすぐに笑顔に戻った。

「うん。おはよう」

お母さんは玉子焼きを詰めている途中だった。私もお弁当箱を一つ取り出して調理を始めようとすると、もっと驚いた顔をされた。

「実華がお弁当作るの?」
「うん。私のじゃないけど」

私はお母さんみたいににっこり笑ってみせた。けど、お母さんはぽかーんとした顔をしたままだ。

「…彼氏?」

恐る恐る聞いてきた声は微かに震えていた。

どうしてそうなるわけ!?

「彼氏なんかじゃない!男子の友達に作ってあげるだけだから」

私がそういうと「そうだよね」と苦笑いしながら何度も頷いていた。彼氏なわけないでしょ。私、彼氏出来てもお弁当作らないから。別にそういうの憧れてないから。

具は何にしようかな。やっぱり玉子焼きはいるよね。

卵をボウルでかき混ぜる。お母さんはそれを見てやっと微笑んだ。フライパンの上に広げるといい音が食欲をそそる。

「実華って料理したことあるっけ?」
「あるよ。隠れて特訓してるんだから」

ドヤ顔をしてみたけど、お母さんはまた不安な顔色に戻った。

「そんな前から……誰のために……」
「だから違うってば!」

あまりにも心配性すぎるお母さんを、軽く叩いた。

私は今まで彼氏なんて出来たことないし、まず恋したことだってない。彼氏なんか出来たらすぐ報告してるし。どんだけ娘のこと心配してるのよ。

でもそれが優しいってことを示してるんだろうな。

「出来たー!」

私は風呂敷でお弁当箱を包み込む。包み方だって知ってるんだから。

「朝ごはんパンなんだけどいい?」
「全然いいよ」

どっちかというとパン派だし。

最近近所に出来たパン屋で買ったみたい。そのパン屋は美味しいと評判ですぐ売り切れてしまうらしく、今回買えたのは、奇跡と言っても過言ではないという。

私はフランスパンとメロンパンを取った。フランスパンはちょうどいいくらいに硬くって、歯は折れない程度。過去に折ったことがあるため、フランスパンは恐怖症気味。

メロンパンは少しメロンの香りが漂うスウィーティーな感じ。

確かにここのパンは美味しい。

「店長さんが、娘さん勉強頑張ってくださいねって」
「あ、うん」

なぜ関係のない店長さんに言われるのか。私は私なりに勉強頑張ってるんだから口出しされたくない。

「虎の丘大学か…」

お母さんが少し悲しそうな顔をした。いったい何が嫌なのか。

「もうそんな歳になったのね。時間が過ぎるのは早いものよ。無駄なくね。」

お母さんはニコッといつもの微笑みを見せた。

なんだ、そういうことか。

私もニコッと返して「ごちそうさま」と手を合わせた。