長い長い坂を全力で走って、息が切れそうなくらいに走って、周りの人にぶつからないように走って、走って走って赤坂の元に辿り着いた。

「桜井……」

赤坂は目を丸くして驚いていた。いきなり現れた私を、呆然と見つめていた。

荒れた息が整わなくて、何から言えばいいのかわからなくて、ただその場で息を吸ったり吐いたりしていた。

「なに」
「ごめん!」

やっと息が整って、声が出るようになった。

一声は謝罪の言葉。本当に申し訳なかったって、ちゃんと伝えなきゃって思って。

「私、勝手なことしちゃったよね。本当にごめん!こんな私……」
「やめてよ」

赤坂は呆れた顔で笑っていた。その笑顔はいつもと変わらなくて、とても懐かしい笑顔。

「そんなのお前らしくない。俺も悪かったよ、ごめん」

ゆっくりと頭を下げた赤坂。なんで赤坂が謝るの。

「ぷっ」

なぜかわからないけど、笑いがこみ上げてきた。

面白いんじゃない。なんだか懐かしくて、これが一番なんだって、安心して出てきたものなのかもしれない。

「何笑ってんだよ」
「何でだろうね」

またいつもの言い合い。

お互い腹を立てたりするけど、それが一番大切なことなんだって思ったりもした。

その時怒っていたとしても、すぐに元に戻れるし、意地悪してやろうとかそんな気持ちは決して芽生えない。

私達はそういう関係なんだ。それが一番なんだ。

それに気づけたらそれでいい。

きっと、一度は離れてみなきゃわからないものもたくさんあるんだなって。

それだけでもたくさんのことを学べる。

やっぱり私達はいつまでも一緒みたいだ。

「受験、あともう少しだね」

赤坂は落ち着いた声でそう言った。

私達はお互い別の大学を受けているけど、偶然にも二次試験は日にちが重なっていた。(ちなみに一次試験は一日違い)

「そうだね、私頑張るから赤坂も頑張ってよ」

お互い応援し合うし、お互いその応援に応えるし。お互い様なんだ。

私達はよく矛盾してるって言われるけれど、私達はいつも"矛盾"して生きてきているから、これが普通なんだ。

赤坂の盾は私の矛が切り裂くし、私の矛は赤坂の盾によって塞がれる。

そんなこと、普通はありえない。だから"矛盾"っていう言葉はできたんだ。だけど私達は違う。

私達の中では、"矛盾"はありえることなのだ。

「翔を見てて、負けられないなって思ったんだ。アイツは誰よりも苦しかったはずなのに、ちゃんと期待に応えて死んでいった。だから、俺も翔に嫌味言われないくらいに頑張らなきゃね」

赤坂は空に向かって微笑んだ。

私も翔くんからたくさん学んだ。本当に翔くんは強い子だったと思う。

「私も頑張らないと。望が夢を追いかけてるみたいに、私も"夢"を"現実"にするために努力しなきゃ」

私も同じ空を見上げて、微笑んでみせた。

「え、お前結局医者になるの?」
「うん、なるよ」

翔くんのことを、最後まで一生懸命助けようとしていたお医者さんの話を聞いていたら、私もそんな人になりたいと思うようになったんだ。

これも翔くんのおかげ。

もし翔くんがいなければ、今私は違う道を選んでいたかもしれない。

「翔くん、ありがとう」

青く晴れ渡る大きな空に向かって、ニッコリ笑ってみせた。