【谷口愛佳】
怖くて怖くて、今すぐにでも抜け出したい。

だけどここで伝えなきゃ、いつ伝えるの?

赤坂先輩は実華先輩のことが好きってことくらい、わかってる。

だけど伝えなきゃ!

「赤坂先輩!」

屋上の重い扉を、思いっきり開けてみた。

そこには案の定、赤坂先輩がいた。

だけどら私を不審がって見ているようだった。

「何の用?」
「お話にきました!」

赤坂先輩は私のこと、うっとうしいって思っているかもしれないし、腹立たしいかもしれない。

それに、本当は私なんかよりも、実華先輩に来てほしかったってこと、わかってる。

だけど……だけど!

「私、赤坂先輩のことが好きなんです!」

散らかったお弁当を片付けていた赤坂先輩の手が、私の言葉で止まった。

お願い、許してください……

こんな自分勝手な私を……許してください。

「俺は……」
「わかってます!実華先輩のことが好きなんだって。それでも私は、赤坂先輩のことが大好きなんです!」

慌ててバッグからチョコを取り出した。

昨日、何時間もかけて作ったチョコカップケーキ。

何度も何度も失敗して、何度も何度もやり直しした。

私は赤坂先輩のために、何度も作り直したんだ。だから、絶対に受け取ってほしい。

「ごめん。俺は違うんだ」

赤坂先輩は、それだけ言い残して屋上から出ていった。

フラれた……フラれた。

チョコも受け取ってもらえなかったし、きっと私のことは全く眼中にないんだよね。

やっぱり私は実華先輩にはかなわないや。

だって実華先輩は、完璧だもの。

「フラれちゃったよ……」

悲しいけれど、悔いはない。

だって言い切れたんだもん。

悲しくなんてないよ。辛くなんてないよ。

これで、"勇気"は手に入れられたのかな。