【赤坂優馬】
雪が静かに降る今日は、二月十四日。世の中は、バレンタインデーで大騒ぎだ。
実のところ、俺も心がざわついていた。
前に父さんに言われた通り、もしかしたら桜井のことが好きなのかもしれないと思い始めたんだ。
確かに桜井は特別な存在。だけど、そういう存在ではないんだって、ずっと思い続けてきた。
でも、これはそうなのかもしれない。
"恋"なのかもしれないって、思い始めていたんだ。
この前、桜井に言ってしまった『月が綺麗だね』という言葉。
桜井はその意味は知らなかったようで、助けられたが、今日は本気で伝えようと思っている。
自分でもよくわからなくて、気持ち悪いと思っているけれど、卒業する前には伝えておきたいんだ。
教室ではみんなバレンタインデーの話で大盛り上がりだ。
誰が誰にあげるとか、何を作ったとか。
そういうのは聞いてもいいのか、聞かない方がいいのかはよくわからないけど。
机の中とか、靴箱とか、ロッカーとか、至るところを探ってみて、チョコがないか確認してみる。
これは男子によくあることで、ないとわかると少し虚しくなる。
でも、俺が望むのは桜井からチョコを貰うこと。
桜井以外に貰っても、別に嬉しくない。だからこれでいいんだ。
俺はモテないからしょうがないと、変な励ましをして、自分を元気づけた。
いつも通っているはずの、屋上までの道のりがとても長く感じられた。
心臓のバクバクする音が止まらなくて、周りのみんなに聞こえてしまいそうだった。
まだ貰えるとは決まっていないのに、こんなに緊張して、なんて恥ずかしい男なんだ俺は。
もう階段の頂上に立っていて、目の前には大きな扉しかなかった。
まだ心臓はうるさく鳴っている。
一度しっかりと深呼吸をして、心臓を静めた。
全身が真っ赤になっていたのが、少し治まってきたところで、重い重い扉を開けた。
「あれ、赤坂。遅かったね」
桜井はいつものようにベンチに腰掛けていた。
だけどそれを見るのも慣れなくて、また心臓が鳴り始めた。
──ドン
扉を閉まる音が、心臓の奥で大きく響いた。
雪は静かに地へと降りていく。
初雪の時以来の雪らしい。
「う、うん。あー弁当あるー?」
「はい、どうぞ」
中身はいつもと同じ。特に変わりはなかった。
「あとこれ」
目の前に差し出されたのは、ラッピングされた袋だった。その中身は……
「いつもありがとう。残り少ないけど、よろしくね」
「うん、よろしく」
きっと上手く笑えなかった。すごい顔になっていたと思う。
すぐに袋を開けて、中身を確認した。
チョコだ!しかもブラウニー!
今までにないくらいの喜びだった。
でも"本命チョコ"じゃなくて、"義理チョコ"っぽいね。
それでも貰えただけで、俺は幸せだ。
「あのさ」
驚くことに、二人の声が重なった。
桜井が何を言おうとしているのかは、わからないけど、きっと大事なことを言おうとしたんだっていうのはわかった。
「いいよ、先言って」
いつもの笑顔でそう言ってくれた。
──ドクンドクン
もう音が漏れそうなくらいに、心臓がうるさくなっていた。
今言わなきゃきっと損する。そんなのわかってる。だけど……
「俺さ……気づいたんだ」
なかなか合わせられない目も、ちゃんと合わせて、しっかりと見つめた。
「俺、桜井のことが、好きだ」
──ドクンドクンドクンドクン
この音はきっと俺のもので、桜井のものではない。
桜井は驚いた顔をして、目を逸らした。
「ごめん。私は赤坂のこと、ライバルとしか思ってない。私のことなんて忘れて」
「忘れてって……」
弁当をその場にこぼしたまま、走り去ってしまった。
雪が静かに降る今日は、二月十四日。世の中は、バレンタインデーで大騒ぎだ。
実のところ、俺も心がざわついていた。
前に父さんに言われた通り、もしかしたら桜井のことが好きなのかもしれないと思い始めたんだ。
確かに桜井は特別な存在。だけど、そういう存在ではないんだって、ずっと思い続けてきた。
でも、これはそうなのかもしれない。
"恋"なのかもしれないって、思い始めていたんだ。
この前、桜井に言ってしまった『月が綺麗だね』という言葉。
桜井はその意味は知らなかったようで、助けられたが、今日は本気で伝えようと思っている。
自分でもよくわからなくて、気持ち悪いと思っているけれど、卒業する前には伝えておきたいんだ。
教室ではみんなバレンタインデーの話で大盛り上がりだ。
誰が誰にあげるとか、何を作ったとか。
そういうのは聞いてもいいのか、聞かない方がいいのかはよくわからないけど。
机の中とか、靴箱とか、ロッカーとか、至るところを探ってみて、チョコがないか確認してみる。
これは男子によくあることで、ないとわかると少し虚しくなる。
でも、俺が望むのは桜井からチョコを貰うこと。
桜井以外に貰っても、別に嬉しくない。だからこれでいいんだ。
俺はモテないからしょうがないと、変な励ましをして、自分を元気づけた。
いつも通っているはずの、屋上までの道のりがとても長く感じられた。
心臓のバクバクする音が止まらなくて、周りのみんなに聞こえてしまいそうだった。
まだ貰えるとは決まっていないのに、こんなに緊張して、なんて恥ずかしい男なんだ俺は。
もう階段の頂上に立っていて、目の前には大きな扉しかなかった。
まだ心臓はうるさく鳴っている。
一度しっかりと深呼吸をして、心臓を静めた。
全身が真っ赤になっていたのが、少し治まってきたところで、重い重い扉を開けた。
「あれ、赤坂。遅かったね」
桜井はいつものようにベンチに腰掛けていた。
だけどそれを見るのも慣れなくて、また心臓が鳴り始めた。
──ドン
扉を閉まる音が、心臓の奥で大きく響いた。
雪は静かに地へと降りていく。
初雪の時以来の雪らしい。
「う、うん。あー弁当あるー?」
「はい、どうぞ」
中身はいつもと同じ。特に変わりはなかった。
「あとこれ」
目の前に差し出されたのは、ラッピングされた袋だった。その中身は……
「いつもありがとう。残り少ないけど、よろしくね」
「うん、よろしく」
きっと上手く笑えなかった。すごい顔になっていたと思う。
すぐに袋を開けて、中身を確認した。
チョコだ!しかもブラウニー!
今までにないくらいの喜びだった。
でも"本命チョコ"じゃなくて、"義理チョコ"っぽいね。
それでも貰えただけで、俺は幸せだ。
「あのさ」
驚くことに、二人の声が重なった。
桜井が何を言おうとしているのかは、わからないけど、きっと大事なことを言おうとしたんだっていうのはわかった。
「いいよ、先言って」
いつもの笑顔でそう言ってくれた。
──ドクンドクン
もう音が漏れそうなくらいに、心臓がうるさくなっていた。
今言わなきゃきっと損する。そんなのわかってる。だけど……
「俺さ……気づいたんだ」
なかなか合わせられない目も、ちゃんと合わせて、しっかりと見つめた。
「俺、桜井のことが、好きだ」
──ドクンドクンドクンドクン
この音はきっと俺のもので、桜井のものではない。
桜井は驚いた顔をして、目を逸らした。
「ごめん。私は赤坂のこと、ライバルとしか思ってない。私のことなんて忘れて」
「忘れてって……」
弁当をその場にこぼしたまま、走り去ってしまった。

