今日は一月十七日。

そう翔の誕生日当日だ。

実は今日の日のために、ずっと見舞いに行っていない。翔を驚かせてみたかったから。

翔が産まれたのは、夜の七時らしく、今日はその時間にお祝いをするみたい。

それまでは、母さんだけが面倒を見ておくとのこと。

そして忘れてはいけないもう一つのこと。今日は合格発表日ということ。

発表時刻は夜の八時。俺達と同様で、ネットで発表される。

きっと今日はお祝い祭りになることだろう。

「父さん、翔のお祝い、しに行く?」

なるべく外出は避けた方がいい。そう医者に言われたことがある。だけどこればかりはたまらないだろう。

「行くとしようか」

父さんはニッコリと微笑んで、ソファのそばにある車椅子を引っ張り出した。



いつもと同じ夜。

美しい月が顔を覗かせ、静かに雲が流れていく。幾千万の星が輝きを放って、静かな街を照らしている。

ちょうどあの時と同じような夜だった。翔が産まれた日と……

「なぁ、みんな俺の誕生日忘れてる感じ?」

翔は退屈そうにベッドに寝そべっていた。

「うーん、どうだろうね」

母さんはふふ、と笑ってから、テーブルに白い箱を置いた。

「なにこれ……わっ!」

一気に病室が真っ暗になり、周りは一切見えない状態となった。

──バチッ

テーブルに置かれた箱が明るく燃えた。いや、燃えたのは箱ではなく、ロウソクだった。

その明かりに照らされて見えるケーキは、すぐにショートケーキだとわかる。

「ハッピーバースデートゥーユー」

そしてやっと俺達の出番がやってくる。

病室のドアから、父さんの車椅子を押しながら登場した。

三人で楽しく歌いながら。

翔は驚きの表情を見せていた。

「おめでとう!」

その声と同時に、手に持っていたクラッカーを鳴らした。

パンッという大きな音と共に、大量の紙吹雪が飛び散った。

そして、ふーっと勢いよくロウソクの火が消されていく。

電気をつけると、翔が楽しそうに笑っていたのが見えた。

「おめでとう、翔」

母さんが翔の頭を優しく撫でた。翔は抵抗することなく、ちゃんとそれを受け入れた。

前までの関係は消えて、もっと自然な関係へと変わったんだ。もちろん俺ともね。

「このケーキすごいね」
「でしょう?すごく迷ったんだけど、今の翔にはこれがいいかもって」

母さんは自慢げに言った。

テーブルの上に置かれた大きなショートケーキ。

その上にはイチゴ以外にも、オレンジ、パイナップル、キウイフルーツ、バナナなどのたくさんのフルーツが乗せられている。

「健康的だと思わない?」
「うん、いいと思うよ」

翔はニッコリ笑った後に、俺の方を向いてニヤリと笑った。

いつものいやらしい笑顔だ。

「頼んでたやつはどちらでしょうか」
「こちらですかね」

そう言って袋を渡した。翔は少し驚いた顔をしてから、すぐにリボンを解き始めた。

「わぁー!かっけー!」
「頑張って買ったんだからな」

すると、翔はギュッとそれを抱きしめて、恥ずかしそうに俺を見つめた。

「あ、ありがとう」
「どういたしまして」

"ありがとう"だなんて、今まで翔に言われたことがなかったから、ものすごく嬉しかった。

そしてケーキを四等分して、楽しく食べることに。

「美味しい!今までの中で一番かも!」
「本当!?よかったー」

母さんはとても楽しそうで、父さんもいつもに増して笑顔になっていた。

しかし、悲劇は突然訪れるものだ。