よく晴れた今日、翔の欲しいと言っていたリュックを買いに行くことにした。

家のそばに、新しくできたショッピングモールがある。

そこにはあらゆるものが売られていて、いつも老若男女が多く集まっている。

入口もたくさんあって、色んな場所から入ることができる。

俺の目の前にある入口のそばには、噴水があって、無邪気に遊ぶ子供達やデートの途中のカップルで溢れかえっていた。

透明な自動ドアが開くと、賑やかな店がズラリと並んでいるのがひと目でわかった。

あのリュックが売っているのは、三階のブランド品が並ぶところだった。

そこに行くまではそんなに遠くはない。

エレベーターで行くか、エスカレーターで行くか迷った末、結局エスカレーターで行くことにした。

「えぇ!?なにそれぇ!」

後ろの方から笑い声が聞こえる。その声は女子高生の二人組のものだった。

「私は、そんなのいきなり言われても困るんだけどぉ」
「だよねぇ」

こんな会話、よく耳にするもの。だから聞かなくてもいいはずなのに、なぜか耳を傾けてしまう。

「『月が綺麗ですね』とか。ありえない!」
「そーれーな!」

思わず後ろを振り向いてしまった。その言葉は、前に桜井に言ったものだった。

あの時のは、なんとなく出てきた言葉だけど……

そんなに笑われることを言ったのかな。

「意味わかって言ってんのかな?『月が綺麗ですね』って、『I love you』でしょ?」
「そうそう!夏目漱石がなんとかかんとかの」

アイラブユー!?えぇ!?

俺は桜井に"I love you"って言ったってこと!?

瞬時に顔が赤く染まった。

桜井はその意味知ってたのかな……知ってたらきっと嫌われてるな。どうしよう……


長かったエスカレーターの時間もすぐに終わって、あっという間に三階に着いてしまった。

はぁーと一息ついてから周りを見渡した。

やっぱりそこには、子供用品らしきものは一つもなくて、まるで大人の世界に入りこんでしまったみたい。

本当に大人の世界はこんなに輝いているのかな。

店内にいるお客さんも、俺以外全員、大人の男性だった。

「いらっしゃいませ」

スタッフの人も、フォーマルなスーツを着たスマートな男性で、とても入りにくい雰囲気だった。

でも頭の中に何度も翔の笑みが浮かび上がり、折り返すことはできなかった。

「こちらですか?」
「あ、はい」

スタッフが手に取ったのは、あのカッコイイリュックだった。

「プレゼント用です」

スタッフの人は何かを言おうとしたけれど、ただ微笑んで口を閉じた。

変なことを言おうとしたのなら、怒るぞ。

袋に詰められたリュックは、とても豪華なものに見えた。(元から豪華だけど)

大人しいグレーの袋にブルーのリボンが結ばれている。これで翔も文句なしだろう。

両手で大事に袋を抱えて店を出る。

ショッピングモールの中心にある、オシャレな時計台を見てみると、もう十二時になっていた。

ちょうどテストが終わった頃かな。

ちゃんと受けれたかな。悔いはないかな。

翔の話したいことがたくさんあるし、プレゼントに喜ぶ顔を早く見たいし、誕生日が待ちきれなかった。

ワクワクしている心は静まらず、口笛を吹きながら家に帰った。