ついに受験当日となった。

朝から心臓がバクバクと音をたてていて、緊張が解けない。

「実華頑張ってね」

望は優しく笑ってそう言ってくれた。

「実華、頑張ってね」

玄関で靴を履いていると、お母さんがひょいと顔を覗かせた。とても心配そうにしていた。

「うん、頑張るね」

それだけ言って家を出た。

試験会場は学校の近くだった。大学が学校のそばにあって、その隣には大きなビルが建っている。その中に会場があるらしい。

距離はだいたいいつもと同じくらい。だけどいつもよりも早く家を出た。

今日はあいにく雨が降っている。湿気のせいでどんよりとした空気が漂っていた。

傘にボトボトと雨が落ちていく。

気分も落ちそうで、受験も落ちそう。わぁ怖い。

そんなことを一人で考えながら、今日も一人で電車に乗る。

車内にはいつもよりも多くの人が乗っていた。ほとんどが学生で、受験の人が多いのだろう。

景色もいつもとは違う。なんだか闇に包まれているみたいに、暗かった。雨のせいなのか、何のせいなのかはよくわからない。だけど暗いのは事実だった。

トンネルに入って余計に真っ暗になる。

静かな車内にはただ緊張した空気が流れていて、誰も騒ぐことなんてなかった。

少し明るくなったと思えば、もっとどんよりした空気が漂う街並みが現れる。ものすごく不気味だ。

ぼんやり外を見ていると、いつの間にか駅に着いていた。

雨が降っているからか、いつもよりもホームに人が多く溜まっていた。

やっぱり学生が大半を占めていた。

その人混みの中に上手く潜り込んで、改札を出た。

傘を差して大粒の雨の降る道を歩いた。その道わ進む人はいつもなら五人くらいなのに、今日は十人どころではなかった。

足元には水溜りがあって、それを避けながら歩いていく。

人の流れが止まったと思えば、向こう側から車がやってきたんだ。

車はお構い無しに勢いよく水溜りの中に入っていった。もちろんみんなびしょんこだ。

はぁーとため息をついて、タオルでできるだけ水滴を拭き取った。

そしてまた流れが動き始める。

だんだん見えてきたのは試験会場のビル。バクバクと心臓の音が速まってきた。

今回落ちたら二次試験を受ければいいけど、受かる確率はかなり下がってしまう。どっちで受かる方が気が楽になるのか、それはやってみなきゃわからない。

傘をバサバサと開けたり閉じたりして、水滴を落とす。

そしてクルクルと巻いて傘立てに立てかけた。

たくさん配置されていた傘立ても、すぐにスペースがなくなってぎゅうぎゅう詰めになっていた。

そして試験会場。誰一人としゃべったりなんかしない。そんな静かな空気でじっとテストをするなんて中三以来。

雨でびしょ濡れになっていたバッグは、雨の臭いが染み付いて臭かった。

はぁーと小さくついたため息が、会場に響き渡った。

慌てて口を抑えてみたけど、試験監督にじっと睨まれてしまって、終わりを感じた。

今日でいくつの幸せが逃げたんだろう。

どんよりした空気は変わらなくて、どこかモヤモヤした気持ちが残る。

そして目の前に問題用紙が置かれた。

始まりの合図だ……