【桜井実華】
さっきまで話していた翔くんは、スヤスヤと眠ってしまった。きっと疲れているのだろう。
窓には霰が突き当たり、ポツポツと音を立てている。静かな病室にはその音が響き渡っている。
なんとなく暇つぶしに探検でもしに行こうかなと思った。田舎育ちだから、そういうことはすぐしたくなってしまう。
廊下はとても綺麗でツルツルな床だった。色んな看護師さんとすれ違う度、会釈をする。
そして、もう少し行ったところには救急搬送された患者が病室に運ばれて行くのが見えた。翔くんと同じだ。
周りにいる看護師や医者は真剣な眼差しで、誰一人不謹慎なことなんてしない。その姿が素敵だなって思えた。
また進むと、目の前の部屋に青い服を着た看護師が部屋に入っていく。そして一人の患者がその中に連れて行かれた。扉が閉められ、『手術中』の赤いランプがついた。
右と左に分かれている廊下。私は右を進んだ。
そこは受付で、たくさんの患者がソファに腰掛けていた。あまり好きではない病院の臭いが鼻につく。
少し戻ってさっきの廊下を左に曲がってみた。するとそこには長い階段があって、隣にはエレベーターもある。どっちで上がろうか迷った末、階段にすることにした。
一段一段上がる度に、ローファーのコツコツという音が響く。その音がなんだか孤独を感じさせているように感じる。少し疲れたところで、頂上に着いた。
白い大きな扉があって、そこには『屋上』と書かれていた。屋上なんだ。病院の屋上とかちょっと憧れるかも。とか思ってその扉を開けてみた。意外と重くて思いっきり押すと、ギギギと音を立てた。
その瞬間、霰が吹きかかってきた。顔に当たって少し痛い。外に出ると、また扉がギギギと音を立てた。そこには一人の女の人が立っていた。しかしその人はナイフを手に持って胸に突き刺そうとしていたのだ。
「やめなさい!」
私は黙っていられず手にあったナイフを弾き飛ばした。
「あなた……」
なんとその女の人は赤坂のお母さんだったんだ。どうしてこんなことを……
「なんで止めるの。私は死んでしまった方がいいでしょ。あの子達のためにも」
肩には力が入っていて、拳を握りしめていた。まるで何かに怯えているかのよう。
「何を言ってるんですか」
いいわけがないじゃない。そんなの誰が喜ぶのよ。
「親がいなくなるなんて、子供にとって一番不幸なことです。子供に不幸を与えるなんて親失格も同然ですよ!」
「あなたに何がわかるの!?まだ子供じゃない!」
そう言って私に背を向けてしまった。
子供とかそんなの関係ない。私がただそう思っているんだから。
「私には好きな小説があります。その作者さんが言ってました。『親になるには、どんなことがあっても子供を傷つけないと誓わなくてはならない』って」
するとお母さんはハッと振り返ってすごい顔をしていた。なんというか、驚きと焦りと悲しみが混ざったみたいな。
ハァハァと息を荒くして何かを言おうとしたみたいだけど、そのままその場に崩れてしまった。
「その作者って……赤坂香……?」
思わず声が出そうになった。だって私の大好きなあの作者さんを知っていたんだもの。
実は特に有名なわけでもなくて、極端にすれば売れていないと言える。そんな人を知っているなんて、とても嬉しかった。
「私が……赤坂香よ……」
「え!?」
今度こそ本当に声が出てしまった。全く理解ができない。
この人が赤坂香さんだって言うの!?
とても複雑な気持ちになってきて、胸が痛かった。香さんもとても悲しそうに下を向いていた。
「ならなんで……」
言っていることと、やっていることが違うじゃない。あんなに素敵なこと言っといて、口だけなんだ。本当にショック。
「ごめんなさい。私、バカみたいよね。こんな変なことばっかりして。もう一度自分を見直さなきゃ。ありがとう、私を叱ってくれて」
本当に辛そうに泣いていた。でも私は何もすることができない。何をしていいかわからない。
私ができることはただその姿を見つめることだけだった。
霰が体中に落ちてきて少し痛かった。
さっきまで話していた翔くんは、スヤスヤと眠ってしまった。きっと疲れているのだろう。
窓には霰が突き当たり、ポツポツと音を立てている。静かな病室にはその音が響き渡っている。
なんとなく暇つぶしに探検でもしに行こうかなと思った。田舎育ちだから、そういうことはすぐしたくなってしまう。
廊下はとても綺麗でツルツルな床だった。色んな看護師さんとすれ違う度、会釈をする。
そして、もう少し行ったところには救急搬送された患者が病室に運ばれて行くのが見えた。翔くんと同じだ。
周りにいる看護師や医者は真剣な眼差しで、誰一人不謹慎なことなんてしない。その姿が素敵だなって思えた。
また進むと、目の前の部屋に青い服を着た看護師が部屋に入っていく。そして一人の患者がその中に連れて行かれた。扉が閉められ、『手術中』の赤いランプがついた。
右と左に分かれている廊下。私は右を進んだ。
そこは受付で、たくさんの患者がソファに腰掛けていた。あまり好きではない病院の臭いが鼻につく。
少し戻ってさっきの廊下を左に曲がってみた。するとそこには長い階段があって、隣にはエレベーターもある。どっちで上がろうか迷った末、階段にすることにした。
一段一段上がる度に、ローファーのコツコツという音が響く。その音がなんだか孤独を感じさせているように感じる。少し疲れたところで、頂上に着いた。
白い大きな扉があって、そこには『屋上』と書かれていた。屋上なんだ。病院の屋上とかちょっと憧れるかも。とか思ってその扉を開けてみた。意外と重くて思いっきり押すと、ギギギと音を立てた。
その瞬間、霰が吹きかかってきた。顔に当たって少し痛い。外に出ると、また扉がギギギと音を立てた。そこには一人の女の人が立っていた。しかしその人はナイフを手に持って胸に突き刺そうとしていたのだ。
「やめなさい!」
私は黙っていられず手にあったナイフを弾き飛ばした。
「あなた……」
なんとその女の人は赤坂のお母さんだったんだ。どうしてこんなことを……
「なんで止めるの。私は死んでしまった方がいいでしょ。あの子達のためにも」
肩には力が入っていて、拳を握りしめていた。まるで何かに怯えているかのよう。
「何を言ってるんですか」
いいわけがないじゃない。そんなの誰が喜ぶのよ。
「親がいなくなるなんて、子供にとって一番不幸なことです。子供に不幸を与えるなんて親失格も同然ですよ!」
「あなたに何がわかるの!?まだ子供じゃない!」
そう言って私に背を向けてしまった。
子供とかそんなの関係ない。私がただそう思っているんだから。
「私には好きな小説があります。その作者さんが言ってました。『親になるには、どんなことがあっても子供を傷つけないと誓わなくてはならない』って」
するとお母さんはハッと振り返ってすごい顔をしていた。なんというか、驚きと焦りと悲しみが混ざったみたいな。
ハァハァと息を荒くして何かを言おうとしたみたいだけど、そのままその場に崩れてしまった。
「その作者って……赤坂香……?」
思わず声が出そうになった。だって私の大好きなあの作者さんを知っていたんだもの。
実は特に有名なわけでもなくて、極端にすれば売れていないと言える。そんな人を知っているなんて、とても嬉しかった。
「私が……赤坂香よ……」
「え!?」
今度こそ本当に声が出てしまった。全く理解ができない。
この人が赤坂香さんだって言うの!?
とても複雑な気持ちになってきて、胸が痛かった。香さんもとても悲しそうに下を向いていた。
「ならなんで……」
言っていることと、やっていることが違うじゃない。あんなに素敵なこと言っといて、口だけなんだ。本当にショック。
「ごめんなさい。私、バカみたいよね。こんな変なことばっかりして。もう一度自分を見直さなきゃ。ありがとう、私を叱ってくれて」
本当に辛そうに泣いていた。でも私は何もすることができない。何をしていいかわからない。
私ができることはただその姿を見つめることだけだった。
霰が体中に落ちてきて少し痛かった。

