【赤坂優馬】
静まった病室では、誰も口を開けることができなかった。
そして、母さんだけ頭を抱えてどこかへ行ってしまった。
「辛い……辛いよ……」
翔の手が俺の服の袖を掴んでいた。こんな姿見るのは何年ぶりだろうか。
本当に辛そうな翔は今にも泣き出しそうな顔をして、俺を見つめてきた。
「泣いてもいい……?」
聞く前から涙をこぼしてしまった翔。もう我慢できなくなったようで、わんわんと泣き出してしまった。
涙はボロボロとシーツに落ちていって、どんどん染みていく。だけど誰も何も言わない。
「翔くんは偉いよ。本当に親思いで、優しいんだよ」
そう言ったのはあの女だった。学校で一度話しただけで、名前も知らないあの女。
「さっき翔くんと話してたとき言ってたよね。『俺は母さんが喜ぶ顔が見たくて受験するんだ』って。本当は苦しいはずなのに、そんな顔一つも見せないで頑張るなんてすごいよ。私はそんなことできない」
そいつはしっかりと翔の目を見ていた。その大きな目が翔を慰めているようにも見えた。
確かにそうだった。勉強をしている時、一言も弱音を吐かなかった。「しんどい」とか「めんどくさい」とか、そんなこと一つも言わなかった。
それに対して俺は「苦しい」とか「辛い」とか、思いをそのまま吐き出していた。翔はすごいや。小学生にしてこんなことができてしまうなんて、すごすぎるよ。
「俺、父さんと話したいよ……」
息がつまりながらもしっかりと話した言葉はそれだった。
そういえば、翔は今年に入って父さんと全く話していないはず。いつも俺が食事を運んでいたし、わざわざ話しに行くようなことは、特になかった。
いつも母さんに甘やかされてきたけど、今ではそれが最悪だったことに気づいてしまい、一つの希望を失ってしまったんだ。
「じゃあ父さん連れてくるね」
翔の頭の上にポンと軽く手を置いた。
「あ、愛佳一緒に行ってきなよ」
桜井がぽかーんとした隣の女に声をかけた。
アイカ?聞いたことのない名前だな。
「え、実華先輩!それはちょっと……!」
「お、おい!待って……」
いきなり外へ押し出されて、廊下には俺とアイカという奴の二人になってしまった。
「あー、えーと」
「高一の谷口愛佳です!」
タニグチアイカ。高一か。聞いたことあるわけないか。
なぜ俺がこいつと二人行かなきゃならないのかわからないけど、翔をこいつに任せるよりはいいのかな。
よくわからないけど、とにかく家に向かうことにした。
静まった病室では、誰も口を開けることができなかった。
そして、母さんだけ頭を抱えてどこかへ行ってしまった。
「辛い……辛いよ……」
翔の手が俺の服の袖を掴んでいた。こんな姿見るのは何年ぶりだろうか。
本当に辛そうな翔は今にも泣き出しそうな顔をして、俺を見つめてきた。
「泣いてもいい……?」
聞く前から涙をこぼしてしまった翔。もう我慢できなくなったようで、わんわんと泣き出してしまった。
涙はボロボロとシーツに落ちていって、どんどん染みていく。だけど誰も何も言わない。
「翔くんは偉いよ。本当に親思いで、優しいんだよ」
そう言ったのはあの女だった。学校で一度話しただけで、名前も知らないあの女。
「さっき翔くんと話してたとき言ってたよね。『俺は母さんが喜ぶ顔が見たくて受験するんだ』って。本当は苦しいはずなのに、そんな顔一つも見せないで頑張るなんてすごいよ。私はそんなことできない」
そいつはしっかりと翔の目を見ていた。その大きな目が翔を慰めているようにも見えた。
確かにそうだった。勉強をしている時、一言も弱音を吐かなかった。「しんどい」とか「めんどくさい」とか、そんなこと一つも言わなかった。
それに対して俺は「苦しい」とか「辛い」とか、思いをそのまま吐き出していた。翔はすごいや。小学生にしてこんなことができてしまうなんて、すごすぎるよ。
「俺、父さんと話したいよ……」
息がつまりながらもしっかりと話した言葉はそれだった。
そういえば、翔は今年に入って父さんと全く話していないはず。いつも俺が食事を運んでいたし、わざわざ話しに行くようなことは、特になかった。
いつも母さんに甘やかされてきたけど、今ではそれが最悪だったことに気づいてしまい、一つの希望を失ってしまったんだ。
「じゃあ父さん連れてくるね」
翔の頭の上にポンと軽く手を置いた。
「あ、愛佳一緒に行ってきなよ」
桜井がぽかーんとした隣の女に声をかけた。
アイカ?聞いたことのない名前だな。
「え、実華先輩!それはちょっと……!」
「お、おい!待って……」
いきなり外へ押し出されて、廊下には俺とアイカという奴の二人になってしまった。
「あー、えーと」
「高一の谷口愛佳です!」
タニグチアイカ。高一か。聞いたことあるわけないか。
なぜ俺がこいつと二人行かなきゃならないのかわからないけど、翔をこいつに任せるよりはいいのかな。
よくわからないけど、とにかく家に向かうことにした。

