『二人目を妊娠。頑張って優馬を育ててみたけど、夜泣きも大変だし、オムツを変えるのだって大変。寝かしつけようとしても、なかなか寝ないし。何度言い聞かせても言うこと聞かない。もう子供なんていらないわ。優馬だけで充分。もう一人赤ちゃんからやり直すなんてとても耐えられない。流産しようかな。もういいよね』

一ページ目には、そんな文と色んな写真が映っていた。この頃優馬は小学生になったばっかりで、ランドセルを背負って楽しそうに写真に映り込んでいた。それとは逆に、疲れた顔で膨れたお腹に拳を押し付けている母さんも映っていた。

その中に自分がいたんだと思うと、また心臓がズキッと痛む。

次のページをめくってみると

『両親が流産は絶対にするなって。こればかりはどうしようもない。ならば弱らせておくことくらいはできる。だからお腹を何度も強く叩いたり、抓ったりもする。死ぬほど痛いけど、そんなの子育てよりかは全然楽だ』

こんなことが書いてあった。俺は母さんに死ね、と言われていたみたい。さすがに酷いよね。今にも心臓が破裂しそうで、頭も痛くなってきた。

『すごくいい知らせ!!お腹の中で心臓の動きが止まったみたい!医者からは手術のことも話されて、この子の死は確定された!私の努力が報われた!』

すぅーと体から体温が消えていく。俺の顔はきっと真っ青になっている。

おかしいよ。誰が子供の死を喜ぶか。

だんだん体に力が入らなくなってきた。本当に死にそうになってきて。

力が抜けた指先でページをめくる。するとそこにはありえない言葉が記されていた。

『本当にびっくり!!死んだはずの子が生き返ったみたい!心臓が動き始めて、元気に育っているとか。これはきっと神様のおかげ!感謝感謝』

ありえない。おかしすぎる。

さっきまで俺のことを殺そうとしていた奴が、復活を喜ぶだなんておかしい。

そして隣のページには出産時の文があった。

『やっと生まれました!これは奇跡としかいいようがない!みんな驚きを隠せなくて、何度も何度も生きているのか確認した。名前は"翔"。優馬も喜んで抱き上げていた。翔、産まれてきてくれてありがとう』

その文の下にはたくさんの写真が。

驚く顔をした医者と看護師達。
笑顔で赤ちゃんを抱き上げる父さんと優馬。
そして涙を浮かべて俺にキスをしている母さん。

とても不気味だ。

寒気がして急に鳥肌が立った。

怖くなってバンと音を立ててノートを閉じた。もう母さんの顔も見たくない。声だって聞きたくないし、もう何もかもが嫌だ。

「ねぇ翔……」
「話しかけんな!」
「翔、違うのよ!」
「何が違うんだよ。全部事実なんだろ?否定することなんてないよな」
「翔!」

母さんが声をあげた瞬間、病室が凍ったように静まった。

「あのね、母さん頑張ったんだ。何回も神様にお祈りしてね。だから翔が産まれてきてくれた時本当に嬉しかったんだよ」

頬に手を当ててニッコリと笑ってきた。でもその笑顔は引きつっていて、作り笑いだというのはすぐにわかった。

「だからなんだよ」

頬にあった手を振り払う。母さんは黙ってその場に立ち尽くした。

「だからなんだよ!産んでくれたんだから感謝しろとでも?大切な命を殺そうとした奴に?誰がそんなことするんだよ!だいたいな……」
「うるさいわね!」

ついに母さんが暴れ始めた。優馬が怒られているのは見たことがあるけど、俺が怒られるのは初めてだ。

グッと胸ぐらを掴んで自分の顔に近づけて、鬼のように睨みつけた。

「産んでくれた親に対してなんなのその態度は!こっちがどれだけ苦労したかしらないでしょ!あんたなんかあの時死んどきゃよかったのよ!」

その言葉にまたイラッときて、近くにある顔を殴ろうとしたけど、優馬にとめられた。

「もうやめろよ!一回落ち着いてくれよ」

母さんは、はぁーとため息をつきながら手を服から離した。

それからしばらく沈黙が続いた。