【赤坂優馬】
あのノートを見てしまってから、部屋を出られなくなってしまった。

翔の顔を見るのも、母さんの顔を見るのも、怖くて仕方なかった。

何よりも一番怖いのは母さんが翔と話している時。それがなんだか怖くて部屋から一歩も出ていない。でも誰も引きこもる俺を心配してくれるようなことはなかった。

ご飯とかは部屋に置いてあったガムとか、飴とか。水も非常用に置いておいたペットボトルを飲んだ。

正直言うと風呂は入っていない。一応服は着替えているけど、体は汚いはずだ。

だけど、さすがにトイレは行った。それだけは我慢ならなくって、部屋を出た。でもすぐに部屋に戻る。

まるで父さんの真似をしているみたい。父さんってこんなに大変なのか。いや、父さんはちゃんとしたご飯食べてるか。

「優馬。クラスの子が来てくれたわよ」

その声は小さかったけど、確かに聞こえた。一番最初の人は母さんなのか。

というよりクラスの子とはいったい誰なのか。嫌われている俺のために来てくれるなんて……

なんだか怖くて緊張してきた。

──コンコンコン

そのノックは力強かった。

「赤坂?何かあったの?私、誰かわかるよね?」

その声はとても聞きなれた声。いつもいつもうるさいってくらい聞いている声。

桜井だ……

桜井がいるとわかるとまた違う意味で緊張してきた。そんなはずないのに、変にドキドキしてしまうんだ。

でも迷惑をかけるわけにもいかなく、少しドアノブを引いてみる。

そこには母さんはもういなくて、桜井しかいなかった。

「なんで来ないの」
「ほんとごめん」
「私は理由を聞いてるの」

すごく胸が締め付けられた。思い出す度に苦しくなってしまう。

「これ、見てくれるか」

渡してはいけないものだったのかもしれないけど、言葉じゃ上手く伝えられないから渡してしまった。

少し遠慮がちにそれをめくると、桜井は笑顔になった。

「昔は仲良かったんだ」

そしてまた一ページ、二ページとめくっていく。だけど、あるページで手が止まった。目も大きく見開いて、驚いているのがひと目でわかった。

「ね、これ、翔くんは知ってるの?」
「わからない」
「言ってあげようよ」

決して止めはしない。知らずに生きている翔が可哀想だ。こればかりは放っておけない。

部屋を出て階段をトントンと降りていく。一段降りる度に緊張が増していく。

でもいつも通りの母さんと翔の話し声は聞こえない。誰か違う他の人との話し声なら聞こえた。少しだけ聞き覚えのある声。それが誰なのかはすぐにわからなかった。

「翔くん!」
「翔くん!?」
「翔!!」

そこにいた女が声をあげた後、続いて俺たちも声をあげた。