【谷口愛佳】
十三年前に引っ越して以来、ずっとこの町には来ていない。だからとても懐かしくって本当に感動してしまう。

今住んでいる街とは全く違って、とても自然で溢れている。

雪が雫のように木に挟まっていて、たまには氷柱があったりもする。まるで雪の国に来たみたい。

きっと私が取ってしまった花の持ち主の人達は、とても怒っていると思う。いや、絶対にそうだ。いきなり知らない子供に花を盗まれるなんて、たまったもんじゃないよね。

もう少しで夕方になるという今、太陽が雪を照らして少しずつ雪が溶けてきていた。

目の前には『ふらわー』と書かれた看板のある花屋がある。この店で間違いない。

ふぅーと深呼吸をしてみる。なんだか緊張してきて、心臓がバクバクとうるさくなってきた。

実華先輩と望ちゃんは大丈夫だと言ってくれたけど、なかなか落ち着かない。

だって十三年ぶりだもん。いくらなんでもそんなの緊張するよ。

でも勇気を振り絞って中に入ってみる。

中は相変わらずオシャレで、昔と変わっていなかった。

「いらっしゃいませ」

中からあのおばさんが出てきた。昔よりは少し老けたけど、あまり様子は変わっていなくて、すぐにあの人だってわかった。

だけど、私のことには全く気づいていないようだった。そりゃそうだよね。あの時私はまだ3歳だったんだもん。顔は変わっているに違いないし、身長だって伸びたし。そんなのわかるわけないよね。

少しガッカリしながらも声をかけてみる。

「あの、私……」
「うそでしょ……」

まだしゃべりかけの私を見て漠然としていた。もしかして私のこと覚えているの!?

「あいちゃんなの……?」
「はい……そうです!」
「あいちゃんなのね!」

おばさんは目に涙を浮かべていた。本当に嬉しそうに笑っていて、私もつられて泣きそうになって。

「ずっと待ってたのよ。あいちゃんが戻って来る日を」

こんなこと言われるのは初めてで、素直にとても嬉しかった。

「美人になったわねぇ。背も伸びて!本当に綺麗になった」

優しく私の体を包んでくれて、何度も何度も背中をさすって。

私の存在を何度も確認して笑ってくれた。

「私、謝らなきゃいけないんです」

そう言うと体が解放されて、しっかりと目を見てくれた。こんなに目を見てくれる人なんて今までいただろうか。

「私、あの時たくさん花を勝手に取ってしまいました。本当にごめんなさい」

深く頭を下げる私を見ておばさんは、ふふと笑った。

「いいのよ。本当に。そんなこと気にしなくたって。私はあいちゃんに会えるだけで幸せなのよ。だから大丈夫」

優しく笑って私の頭を撫でてくれた。
それはとても優しくて、"愛"を感じた。

これが"愛"なんだって初めて知った。

後ろを見れば、実華先輩と望ちゃんがニッコリと笑ってくれていた。

わかった。
私は独りじゃないってこと。