誰もいない公園は少し淋しかったけど、今の私達にはピッタリだった。
ブランコに座るとひんやりとお尻が冷たく感じた。ブランコなんて何年ぶりだろうか。
「愛佳って……昔隣の町に住んでた?」
すると愛佳はビクッとわかりやすく反応して、足元にあった石ころを蹴った。
「はい。ずっと前ですけどね。でもまだしっかりと覚えてるんです」
ふふ、と優しく笑って上を見上げていた。きっと本当に楽しかったんだのだろう。
「これ、愛佳さんですか?」
望がおばさんから借りていた写真を差し出した。すると愛佳が驚いた顔でそれを受け取った。
「懐かしい!花屋のおばさん!ものすごく優しくっていつもお世話になってた!」
やっぱり私のカンは当たったみたい。望は唖然としていた。まさか本当に当たるとは思っていなかったみたい。
でも愛佳の顔色はだんだん変わっていった。最後には悲しそうな目でその写真を見つめていた。
「なんでこの写真持ってるんですか?」
「ある事件のこと調べてる時に、花屋のおばさんに借りたんです」
"ある事件"と聞いてさらに顔色が暗くなっていった。愛佳は気持ちが表情に出やすいタイプだから、すぐにわかってしまう。
「私、本当に迷惑なことしてしまったと思ってるんです。"ある事件"って花畑のことですよね」
愛佳がポケットから一輪の花が挟まれたしおりを取り出した。それはまだ美しさを保っていて、とても綺麗だった。
「私は花があれば取れるだけ取った。袋いっぱいに詰めて。誰にもバレたくなくて、朝早くからずっと花を探し当てたんです。そして最後に辿り着いたのはあの花屋さん。思った以上におばさんが優しくて、ずっと行き続けました」
さっき上を向いていた顔は、今は下を向いて足元を見ている。
「優しかったから取ってもバレないだろうって、勝手に花を持ち帰るようになったんです。バカですよね。本当に。だから引っ越す時に花束を貰ったときには、本当に嬉しくって。だけど」
愛佳は震えていた。とても淋しそうに震えていた。
「だけど、後から本当に悪いことしてしまったんだって気づいたんです。そしてあのおばさんの優しさにも」
愛佳はブランコの鎖をぎゅっと握っていた。溢れ出しそうな気持ちを抑えているんだなって、すぐにわかった。
「いったいどうして花を?」
これはずっと気になっていたこと。何が目的なのか。わざわざ大量の花を持ち帰るだなんて普通じゃ考えられないもの。
はぁーと一つため息をつく音が聞こえた。それはもちろん愛佳のもので。
「実は、その時に私のおばあちゃんが癌になったんです。もう余命宣告もされていて。そんなおばあちゃんを元気づけられるのは一つしかありませんでした」
その答えは私も予想できた。きっと望もわかっていただろう。だけどそれを言うことはできなかった。
「それはお花だけ。おばあちゃんは昔から花が大好きで、花を見る度に感動していました。まだ幼かった私には、お花をあげることくらいしかできなくって、つい取ってしまったんです。このしおりもおばあちゃんから貰ったもので。こんな軽いことで許されるわけがないってわかってます」
そんな理由を聞いてしまえば、誰も反論なんてできない。私達はただ黙って聞くことしかできなかった。
愛佳は手にあるしおりを優しく見つめて、話を続けた。
「でも、本当におばあちゃんに元気になってほしくって。その気持ちが先走ってしまったんです。だから私……」
「もういいんだよ」
今にも泣きそうになっていた愛佳が可哀想に思えてきた。
私は愛佳を責めたりなんかしたくない。もちろん悪いことをしてしまったけど、それを責めるのはいけないって思ったんだ。
「過去のことをいつまでも引きずるのはやめた方がいいよ。ただ、一度犯してしまった罪はもう二度としなければいいだけ。それだけで充分だから」
望もうんうんと頷いていた。
「実華せんぱい……」
愛佳はその場で泣き崩れてしまった。子供みたいに泣きわめいていたけど、それは悪いことではない。
泣きたい時に泣かなきゃ。
「おばさんのところにだけは行きます」
愛佳は涙を拭いながらそう言った。
ブランコに座るとひんやりとお尻が冷たく感じた。ブランコなんて何年ぶりだろうか。
「愛佳って……昔隣の町に住んでた?」
すると愛佳はビクッとわかりやすく反応して、足元にあった石ころを蹴った。
「はい。ずっと前ですけどね。でもまだしっかりと覚えてるんです」
ふふ、と優しく笑って上を見上げていた。きっと本当に楽しかったんだのだろう。
「これ、愛佳さんですか?」
望がおばさんから借りていた写真を差し出した。すると愛佳が驚いた顔でそれを受け取った。
「懐かしい!花屋のおばさん!ものすごく優しくっていつもお世話になってた!」
やっぱり私のカンは当たったみたい。望は唖然としていた。まさか本当に当たるとは思っていなかったみたい。
でも愛佳の顔色はだんだん変わっていった。最後には悲しそうな目でその写真を見つめていた。
「なんでこの写真持ってるんですか?」
「ある事件のこと調べてる時に、花屋のおばさんに借りたんです」
"ある事件"と聞いてさらに顔色が暗くなっていった。愛佳は気持ちが表情に出やすいタイプだから、すぐにわかってしまう。
「私、本当に迷惑なことしてしまったと思ってるんです。"ある事件"って花畑のことですよね」
愛佳がポケットから一輪の花が挟まれたしおりを取り出した。それはまだ美しさを保っていて、とても綺麗だった。
「私は花があれば取れるだけ取った。袋いっぱいに詰めて。誰にもバレたくなくて、朝早くからずっと花を探し当てたんです。そして最後に辿り着いたのはあの花屋さん。思った以上におばさんが優しくて、ずっと行き続けました」
さっき上を向いていた顔は、今は下を向いて足元を見ている。
「優しかったから取ってもバレないだろうって、勝手に花を持ち帰るようになったんです。バカですよね。本当に。だから引っ越す時に花束を貰ったときには、本当に嬉しくって。だけど」
愛佳は震えていた。とても淋しそうに震えていた。
「だけど、後から本当に悪いことしてしまったんだって気づいたんです。そしてあのおばさんの優しさにも」
愛佳はブランコの鎖をぎゅっと握っていた。溢れ出しそうな気持ちを抑えているんだなって、すぐにわかった。
「いったいどうして花を?」
これはずっと気になっていたこと。何が目的なのか。わざわざ大量の花を持ち帰るだなんて普通じゃ考えられないもの。
はぁーと一つため息をつく音が聞こえた。それはもちろん愛佳のもので。
「実は、その時に私のおばあちゃんが癌になったんです。もう余命宣告もされていて。そんなおばあちゃんを元気づけられるのは一つしかありませんでした」
その答えは私も予想できた。きっと望もわかっていただろう。だけどそれを言うことはできなかった。
「それはお花だけ。おばあちゃんは昔から花が大好きで、花を見る度に感動していました。まだ幼かった私には、お花をあげることくらいしかできなくって、つい取ってしまったんです。このしおりもおばあちゃんから貰ったもので。こんな軽いことで許されるわけがないってわかってます」
そんな理由を聞いてしまえば、誰も反論なんてできない。私達はただ黙って聞くことしかできなかった。
愛佳は手にあるしおりを優しく見つめて、話を続けた。
「でも、本当におばあちゃんに元気になってほしくって。その気持ちが先走ってしまったんです。だから私……」
「もういいんだよ」
今にも泣きそうになっていた愛佳が可哀想に思えてきた。
私は愛佳を責めたりなんかしたくない。もちろん悪いことをしてしまったけど、それを責めるのはいけないって思ったんだ。
「過去のことをいつまでも引きずるのはやめた方がいいよ。ただ、一度犯してしまった罪はもう二度としなければいいだけ。それだけで充分だから」
望もうんうんと頷いていた。
「実華せんぱい……」
愛佳はその場で泣き崩れてしまった。子供みたいに泣きわめいていたけど、それは悪いことではない。
泣きたい時に泣かなきゃ。
「おばさんのところにだけは行きます」
愛佳は涙を拭いながらそう言った。