「待ってよ実華!」

一番初めに足が動き出した。気づけばもうお店の外で、遠くから望が追いかけてきている。

合っているかはわからないけど、合っている気がする。十三年前と顔が変わっていないなんて珍しいし、一枚の写真で彼女だと決めつけてしまうのもなんだか違う。だけど、合っている気がするんだ。

「もう!勝手に走り出すなんて、少女漫画じゃないんだからやめてよ!」

望は息を切らしながらその場にしゃがんだ。

のんびりしてる暇なんてないよ!ここが田舎だってこと忘れちゃいけない!電車は一時間に一本!逃してしまえぱ一時間無駄にしちゃう!

「行くよ!」
「えー!」

急いで走る私を、後ろから一生懸命追いかけてくる。

積もった雪が太陽に照らされて、キラキラと輝いている。

いつも野良猫で溢れている空き地には、一匹も猫が見当たらない。

そんな静かな冬とは反対に、私達は道を駆け抜ける。いつもならニャーと猫が寄り添ってくるけど、今日はそれもない。

一旦呼吸を整えようと立ち止まった場所は、いつもの坂のてっぺんだった。

下を見下ろせば駅が見える。あとほんの少しだ。

望が何かを言おうとしていたけど、なかなか言葉が上手く出せなくてそのまま走り出してしまう。

雪のせいでいつもの倍滑りやすくなっている坂は、一番危ういスポットだ。

何度も滑りそうになりながらも、絶対滑らないぞと意地を張って走った。

遠くから踏切の音が聞こえてくる。まるで時間切れを忠告しているようだ。

やっと着いたものの、なかなか呼吸が整わない。それでもすぐに切符を買って、駅員さんに見せる。

ハァハァと荒く吐かれた息は真っ白だけど、決して寒いわけではなかった。

すぐそばの踏切が鳴る。時間切れを示した。私達はぎりぎりクリアすることができたみたい。

望が何か言おうとしたところで、電車が駅に着いた。

「はぁー」

二人してだらしなく椅子に座り込んだ。珍しく私も今日は立たない。

「いったいどこにいくの?」

呆れた顔で望は聞いてきた。

「愛佳のところ。わからないけど、私のカンではあいちゃんは愛佳なの」

実は前に年賀状を送るために住所を聞いていた。それはケータイの中に書き込まれている。聞いといてよかったと心から思った。

「そう。でもいきなり走り出すのはもうやめてよね」

呆れた表情だけど、どこか楽しそうにも見えて、なんだか嬉しかった。

窓からはとても美しい雪景色が見えた。どこからもキラキラと輝きを放っていて、本当に美しかった。

トンネルの暗闇を抜け出せば、いつもと違う景色が広がる。

こっちはあまり雪が積もっていなくて、いつもとあまり変わらない景色だった。だけど、街の雰囲気が違うのはすぐにわかった。

電車を降りれば、人が溢れかえっているのが見えた。

楽しそうに写真を撮るカップル。
恥ずかしそうに手を繋ぐカップル。
笑い合いながらおしゃべりしてるカップル。

ほとんどがカップルだった。


望の家は駅からとても近いところで、すぐに着いた。

白い大きな家で、大きな車が二台置かれている。そして玄関には花がいくつか咲いていた。

大きな扉の隣にあるインターホンを押す。

ピンポーンと音がするとなんだかやけに緊張してしまう。

「桜井実華です。愛佳に会いに来ました」

そう言うとガチャと扉が開いた。

そこには嬉しそうな顔をした愛佳がいた。

「どうしたんですか?」

やっぱりこの笑顔だ。きっとこの子が"あいちゃん"なんだ。

「ちょっとお話したいことがあって」

愛佳はこてんと首を傾げていた。そして望の方を見て小さく会釈をした。それに望も返す。

「すぐそこに公園があるみたいだよ」

望がケータイでマップを表示させた。

「そこで話そうか」

私達はその公園までトボトボと歩いて行った。