かなり歩いて辿り着いた花屋さん。

少し古びた屋根に雪が積もっている。

看板にはわかりやすい字で『ふらわー』と書いてあった。

でも店内はとてもオシャレで、かかっているジャズの音楽が雰囲気を作っている。

周りにはブーケが飾ってあったり、プランターが並べられたりしていら。天井からは、色んな花が吊り下げられていた。

「いらっしゃいませ」

すると中から優しそうなおばさんが出てきた。

実は一度だけここに来たことがある。母の日のプレゼントを買いにやって来たんだ。その時にたくさん飴玉を貰った記憶がある。とても優しい人だったなぁ。

「あの、十三年前に何か起こりませんでしたか?」

私が花に夢中になっているところで、望が話し始めた。

おばさんは顎に手を当ててうーん、と十三年前を思い出していた。

「特に何もなかったけどねぇ」

おばさんはニッコリ笑ってそう言った。でも町には一つしかないこの花屋さんで何もないわけがない。

「花がなくなっちゃったりしてないですか?」

するとおばさんが大きな声をあげた。

「あったわ!」
「よければその話聞かせていただけますか?」
「全然いいわよ」

おばさんは優しい笑みを浮かべて私達のそばに来てくれた。

「一人の女の子がずっとお店に来ていたの。確か"あいちゃん"だっけ。その子は本当にお花が大好きでいつもお花を見に来ていたわ。だけど不思議なことに、あいちゃんが来る度に花が一本、二本と消えていくの。でもあいちゃんを疑ったりなんてしたくなかった」

おばさんはずっと笑みを崩さすに語っている。悲しいとか辛いとか何もないのかな。

「だけどある日ね、あいちゃんが隣の町に引っ越すことになっちゃって。だから私は大きな花束をプレゼントしたの。そしたらすごく喜んでくれて」

この人はなんて優しい人なんだろうって心から思えた。

「その、あいちゃんの写真とかってありますか?」

今のところ、容姿だけは明らかになっている。だから写真を見ればもっとわかることがあるはず。

「あったかしらね」

ゴソゴソと棚を探って写真を探していた。その時、天井から吊り下がっていた花が一本落ちてきた。

それを拾いあげると、そこには一枚の写真が貼り付けられていた。

「これじゃないですか?」

写真を手渡すと、驚いた顔でそれを見つめていた。

「とても久しぶりに見たわ!本当にどこに行っちゃったのかしら」

白いワンピース、赤い髪ゴムに二つ結び、裸足……

完全に一致している。

その手には大きな花束を持っていて、とても嬉しそうだった。隣にはニッコリ笑う女の人がいた。きっとこのおばさんだろう。

「もう一度見せていただいてもよろしいですか?」

えぇ、と少し淋しそうにそれを渡してくれた。

「うーん、どっかで見たことあるような」

いつどこで見かけたかはわからない。けどどこか馴染みのある顔だった。

別に幼稚園の友達とかそんなのじゃない。どこか誰かに似ている気がするんだ。

この笑顔、どこかで見た気がするんだ。
目がクリクリで、頬が少し桃色で。

とても楽しそうなその笑顔、いったいいつ、とこで?

「あいちゃん……」

望がボソリと隣で呟いた。また何か深く考え事をしているようで。今度は私も同様で、深く考え事をしている。

あいちゃん……あいちゃん……

あいちゃん!!

「愛佳だ!!」