あーあー。

なんだよこの気持ち!!

勢い自分のベッドに飛び込んだ。そしてそばに置いてあったクッションを抱きしめた。

「うぐぅー……ぐぁあ!」

なんだ?何に対してこんなにモヤモヤしてんだ?

クッションを右腕で抱えながら左腕を思いっきり壁にぶつけた。

「いってぇ!」

五本指一本一本がじんじんと痛かった。そんなのあたりまえだ。

赤くなった小指を見ていると、昨日のことが思い出される。

『じゃあ、卒業までに"幸せ"の意味考えてくること!二人の約束という名の宿題!』

あの時桜井と繋いだ小指。あの時の感覚は……あぁ!

俺は桜井のことが好きなわけじゃないのにぃ!

無意識のうちに、微笑む桜井の姿が出てきてしまう。なんで?なんでなんだろう。

モヤモヤする気持ちは止まるわけなく、ずっとベッドの上で暴れ狂った。

最後にクッションを思いっきり棚に投げると、何冊か本がバラバラと落ちてきた。

本を拾いに行くのは面倒だけど、放置しとくのも面倒だから今のうちに片付けよう。

大学のパンフレット、中学生の頃の英語の教科書、そしてノート。

全部見慣れたものだった。あたりまえか、自分の部屋だから。

でも一つだけ見慣れないものがあった。

少し古びたノート。
表紙にはかわいらしい赤ちゃんの絵が描かれている。

いったい誰がこんなものをここに入れたのだろう。

なんとなくペラペラと開いてみた。

そこには母さんの写真がたくさん貼ってあった。たまに父さんも混じっていて、二人とも楽しそうな笑みを浮かべている。

よく見ると、母さんのお腹が膨れていた。妊娠している時の写真のようだ。
どっちの時なのかはわからないけど、とても嬉しそうにお腹に手を添えていた。

また一ページペラッとめくると、次は手書きの文が書いてあった。明らかに母さんの字だ。

『もうすぐで産まれるみたい。お腹も元気に蹴ってくれる。すごく健康らしい。この子の名前はまだ未定!だけど候補は考え中……とにかく初めての子供だから、この子のためにも頑張ろう!』

その内容は今ではありえないようなことしか書いていなかった。

初めての出産、つまり俺の出産。こんなにも楽しみにしていたんだと思うとなんだか苦しい。

また次のページに読み進めると、そこにはいっぱいに写真が貼られていた。

産まれたてで裸ん坊の俺。そしてその俺を嬉しそうに抱きしめている母さん。

こんなに笑顔な母さんは今まで一度も見たことがない。
この時はすごく愛されてたみたいだな、俺。

まためくると次は文。

『無事出産!名前は"優馬"。男の子で、泣き声も立派でした!本当に子供ってかわいいなー』

こんなに俺を抱きしめて、キスをして、散々可愛がっているくせに、今は全く愛していないんだな。酷い。

産まれたての頃はこんなに愛されていたんだと思うと、胸がチクリと痛む。

次のページには黒いランドセルを背負った少年の写真と、文が書かれていた。

『優馬は明日から小学生です!ということで、二人目を妊娠しました!まだ性別とか詳しいことはわからないけど、元気に産まれてくることを願います!』

いつから翔のことを大事にするようになったんだっけ。もちろん受験のためっていうのもあるけど、その前は普通に仲良くしていた記憶がある。ということは最近なのかな。

よくわからないけど、そのまま次のページまでとんだ。

「え、」

そのページを見た瞬間、言葉を失ってしまった。