【桜井実華】
部屋の窓から綺麗な三日月が見える。

冬は夜が短く、すぐに月が顔を覗かせる。

まるで私達の話を聞いているみたいだった。

初めて望の話を聞いたが、かなりの悩みを抱え込んでいたことがすぐに伝わった。

"幸せ"ってなんだろう……

それは私にもわからない。まだ"幸せ"を見つけていないから。

「気づいてあげられなくてごめんね」

私が謝ると望は小さく頷いて立ち上がった。

きっと辛かったんだよね……本当にごめんね。

こんなに表情を見せる望は久しぶりで思わず気持ちが溢れ出してくる。

「実華……ありがとう」

私は頷いて望を抱きしめた。

「辛いことあったら、昔みたいになんでも言っていいんだよ。一人で抱え込む必要なんてない。私がいるから」

耳元で鼻を啜る音が聞こえた。望は泣いてしまったんだ。

でもそれでいい。泣きたいときになかなきゃ。

「わかった。もう一人じゃないんだね」

望の背中はまだ小さかった。小さい頃から成長してないのに強がって、一人で苦しい気持ち抱えてたんだよね。

どんなことでも相談して。絶対に一人じゃないんだから。

体を離して解放してあげると、望は手の甲で涙を拭い、クローゼットに向かった。そのクローゼットの中身は物置と同じくらい荒れていた。

中には昔使っていたおもちゃや、もう着なくなった服などが、いっぱいに入っていた。

望は奥に手を入れてゴソゴソと中を漁った。
周りから大量の楽譜が落ちてきたのと同時に望はヴァイオリンを引っ張り出した。

崩れ落ちた楽譜の束を拾い上げて、中からお気に入りの曲を選んだ。

少し緊張した様子でヴァイオリンを構える。

そしてゆっくりと弓を動かした。

それから鳴る音はあの頃と同じ。とても美しい音色。望は自由に音を奏でていた。

「やっと戻れた」

望は嬉しそうにギュッとヴァイオリンを抱きしめた。