――遠慮せんで、自然に話せる。
 そういえば、満面の笑みで言ったかも。よく考えなくても、十分に思わせぶりな言葉。やってしまった。
 勇に昔、「俊ちゃんは天然たらしになる恐れがある」と帰り道延々と自説を披露されたことがある。あの時は「何を馬鹿な」と適当に聞いていたが。今ちょっと、分かった気がする。
「それやけあんたのこと嫌いになれんのよ」か。少々荒々しいが、とても温かい、優しい言葉。智奈さんが温を思う気持ちも、こんな感じなのだろうか。
 死んでもなお、忘れられない強い思い。孤立してでさえ、支えたいと思わせた。もし俺が温みたいな状況になったら、恵子はどうするのだろう。ふとそんな考えがうかぶと、どうにも答えを知りたくなってきた。
「なあ恵子」
 そう思うと自然に口から言葉がもれていた。
「なあに?」
「もしさ、俺が何かやらかして、クラスとか学年みーんなからはぶられたら、どうする?」
 とっぴすぎる質問かな、そう思ったが意外にも彼女は笑顔をみせ、
「片倉がそんなんなること、絶対ありえんやろ!」
と即答してみせた。あはは、そうか。質問自体を否定されるとは、思いもしなかった。
「そう?」
「うん。まあ、もしクラスからはぶられたとしても……うちは片倉の味方するやろし」
「う、うん」
「来原もあんた裏切らんやろ?」
「勇? ……あー、まあ多分ね」
「絶対やろ……ちか、何かとみんなあんたのこと頼りにしとるところあるみたいやけん、片倉が一人は本当に想像つかんな」
 最後はつぶやきのように、夜の冷えた空気にさっととけていった。
 そうか、恵子も勇も味方、か。二人の姿を思い浮かべ、随分心強く思った。二人とも、敵に回したらかなり怖そうだ。でもそれで二人にまでいじめがひろがったら……。
 きっと、二人はもっと苦しくなる。多分俺の前では「大丈夫だよこのくらい」と笑顔をうかべるのであろうが。それは、俺にとってもっともっと苦しい。
 苦い未来を想像して、恵子と勇をわざと突き放すかもしれない。それで、二人が苦しい思いをしないですむのなら。俺一人だけの苦しみで、すむのなら。
 ただ、優しさを拒むのはきっと凄く勇気がいる行為だ。
温ももしかしたら、そうなのだろうか。智奈さんをつっぱねたのは、智奈さんのことを思ったからなのだろうか。たぶん、温はめちゃくちゃ勇気のある奴だ。向こう見ず、とも言うけれど。あえて優しさを拒むことぐらい、出来てしまうのだろう。
「で、それがどうしたん?」
 ふと恵子が腕を小突き、ぱっと意識が引き戻される。いけね、だんまり状態。
「いいや、ちょっと思っただけ」
「何それ」
 笑顔を向けると、彼女も笑い、もうそれ以上はその話題には触れてこなかった。