屋上のあいつ

そう言えばあいつは、高校受験失敗してるんだったっけ。あれは中学三年の冬。
『おーう、孝樹、久しぶり!』
 受験も終わり、進路が決まったやつらがちらほら登校する中に、俺は孝樹の姿を見つけてすぐに、声をかけたのだ。
『わー俊弥、聞いてよー』
 向こうも、俺を見るなりへらへらと笑いながら近寄ってきて、がしりと俺の両腕を掴んで、
『俊弥ぁ、俺公立、落ちちゃった』
と眉を下げる。それに俺はにやりと笑うと、
『あはは、やっぱりか』
と返事した。孝樹は、「親に負担かけたくないから」と珍しく殊勝な言葉を吐き公立を目指していた割には、あんまり勉強をしている風には見えなかった。やっぱり、あんまり本気で狙ってなかったんだろうな。
『やっぱりっち、なんでえ!』
『お前の頭で入れるわけないやん、ろくに勉強もせんで、ただの高望みやろ』
 いつものようにそう混ぜっ返してやると、孝樹はぎろり、と俺をにらんできた。その表情にまたしても、俺はアハハと笑いを重ねる。
『……じゃあ、そう言うお前はどうやったん? 同じとこうけたやろ』
『え、余裕余裕。俺、ちゃんと勉強したもん。公立私立両方合格しました』
『うわー! ムカつくー!』
 そんな感じで、先生が来るまできゃいきゃいと騒ぎまくったっけ。あの時失敗したから、受験に敏感になっているのだろうか。行事が面白そうだ、という理由で私立入学を決めたぐらい、お気楽な俺には、どうもそこまで真面目に考えられない。
升田といる時とか、二人じゃない時とかは本当に面白い奴なのに。一緒に馬鹿騒ぎができて、会話もめちゃくちゃ盛り上がる、クラスでも仲良いほうに見られているはずなのに。二人でいる時にこうやって、よくわからないタイミングでつっかかってくるようになって、一番距離感が分からなくなってしまった。
 どうして俺と二人の時は、素直に笑ってくれないのだろう。首をかしげつつも、まあいつもの事だ、と本来の目的を果たすため、再び大学一覧に目を戻した。