「中幡さん、ですか?」

 当然のように自然と発せられた香織さんの言葉に違和感を感じた。

 香織さんは今、〝中幡さんのこととかあるじゃない?〟と言ったけれど、中幡さんと聡介さんは付き合っていなかったし、ただ仲が良かっただけ。それは以前、香織さんにもしっかり説明したはず。それなのに、どうして今更また中幡さんの名前が出てくるのだろう。

 色々話が噛み合わず、混乱していた私。そんな私の横にいる香織さんが一瞬、まずいと言わんばかりの表情を浮かべた。

「ひょっとして、中幡さんと神木部長のこと、まだ何も聞いてない?」

「え?」

 もちろん、神木部長と中幡さんのことなんて何も聞いていない私の反応に香織さんは眉をひそめて苦い表情を浮かべた。

「……私も、昨日中幡さんから聞いて驚いたんだけど、中幡さんと部長、専門学生時代の同級生らしくて、その時に一度付き合ってたらしいのよ。ごめん。私、てっきり聞いてると思ってて」

「あ……えっと、そうなんですね」

 意外にも私は冷静だった。

 だから、あの二人はあんなに親しげだったのか。備品倉庫に聡介さんと二人でいた時だって、そこに入ってきた中幡さんは〝聡介〟と呼びかけていた。

 これで、何となく胸の奥底にあったモヤモヤの原因が解決されたような気がする。