私だって、ちゃんと大人なのに。

「聡介さん」

「……ん?」

 料理をする手を止めず、こちらも見てくれない聡介さん。それもなんだか悔しくて、私は聡介さんのシャツをぎゅっと掴むと背中にぺとりとくっついた。

「こら、沙耶、危な……」

「キス、しませんか」

 小さく、自信無さげにぼそりと零した言葉。きっと、聡介さんに聞こえてしまったであろうその言葉を、私は少しだけ後悔した。

 もし、これで拒否されてしまったらどうしよう。もし、また子供扱いされてしまったらどうしよう。

 そんなことを考えていると、ピッ、と何かボタンを押す音が聞こえ、私に背を向けていた聡介さんがやっとこちらを向いた。

「今、沙耶のリクエストでオムライス作ってたんだけど……ちょっと中断」

「ご、ごめんなさ……」

 怒られると思い、反射的に視線を落とす。すると、顎に聡介さんの手を添えられ、視線が無理矢理上げられた。

「しようか。キス」

「へっ……⁉︎」

 徐々に近くなる聡介さんの顔。気がつけば私達の唇は重なっていて、しばらくの間、まるで時が止まったみたいにお互いの温度を感じていた。

 私、聡介さんとキスしてる。

 そう気づいたとほぼ同時に唇は離れ、彼は私の唇を親指でなぞると背中に回されていた左手で私を抱き寄せた。


「あと少しで止まらなくなるところだった」

 オムライス作らなきゃいけないのにな、と耳元で笑う聡介さん。私は、彼の言葉に顔がぼっと火でも吹いたかのように熱くなり、ただ視線をキョロキョロと動かし続けた。

「俺だって男だからな。今後、そうやって煽るのは控えるように」

 額に、ぴん、と彼の人差し指が当たる。

 さっきまで重なっていた聡介さんの唇の熱が冷めなくて、消えなくて、まだ恋しい。

 だけど、初めて一人の女として見てもらえたような気がして、幸せで、また私の口角は上がったまましばらく下がらなかった。