「えへへ、田口さん。実は……」

「あー、立川。ちょっとこっちおいで」

 田口さんに部長と付き合うことになったと報告しようとしたその瞬間。私の視線の先にいつからかいた部長に手招きをされた。

「え? あ、はい!」

 突然に現れた部長からの呼び出し。一体なんだろうと首をかしげた後、私は田口さんに「すみません」と一言を残して部長室へと向かう神木部長の後ろを歩き出した。

 私を部長室に招き入れると、部長は私のおでこにつん、と人差し指で触れた。

「こら。誰にでもそうやってすぐに言わない」

 あ、そういうことか。

 私は、彼の一言を聞いて、どうしてここへ呼び出されたのかがようやく理解できた。だけど。

「部長と付き合えることになったって、他の人に言っちゃダメですか?」

 気持ちを伝え続けること約一年半。やっと、やっと、この溢れんばかりの大きな想いが実ったのだ。出来ることなら、この会社の人だけではなく、世界中の人に言いふらしてやりたい程、私は幸せだというのに。

「いや、ダメだってわけじゃないけど……」

「何が不満なんですか!」

 はっきりしない口調の部長に、私はぐいぐいと迫る。彼は、少しずつ後退りながら困ったように髪をかき乱した。