「悪い。俺も、会社だからって思ったんだけど……そろそろ限界」

「え?」

「立川、さっき俺にも同じ気持ちになってもらえるように頑張るって言ったけど……もう、俺も同じ気持ちだから」

「えっ……?」

 神木部長の言葉の意味を理解できたと同時に顔を上げると、そこには優しく笑っている神木部長がいた。

「好きだよ。立川」

 もう一度、私にわかるように。優しく、でも、はっきりと、私と同じ気持ちだと伝えてくれた部長。

 夢みたいで、信じられなくて、だけど嬉しくて。私の瞼からは、たくさんの涙がこぼれ落ちた。

「でも、部長、田口さんに私の好意に困ってるって言ってたし、振ったのに……」

「ああ、まだあれ覚えてたのか。あれは、違う意味の〝困ってる〟だから」

「違う意味?」

「好きになりそうで困ってる、って意味」

「ええっ⁉︎」

「振ったのも後悔してた。ずっと中幡に相談してて、そうしたら西内が付き合ってるって言うから、あれは焦ったな」

「そんな事、全然知りませんでした……」

 あんなに落ち込んでたくさん悩んでいたけど、部長も私のことで悩んでくれていたなんて。

 まさかの出来事に、私は大きく安堵の息を漏らした。

「ごめんな。嫌な思いもたくさんさせて。だけど、12歳も離れてるし、ずっと立川の好意自体冗談だと思っててさ」

「やっぱり冗談だと思ってたんですね。酷い。私はいつだって真剣だったのに!」

「あはは、ごめんごめん」

 私の背中に回していた左手を離し、その手先で私の髪を優しく撫でる。部長がいつも以上に優しい表情で笑ってくれることが嬉しくて、私は部長が私の好意を冗談だと思っていたことなんてもうどうでもよくなってしまうほどで。

「部長」

「ん?」

「今、すっごく幸せです!」

「うん。そうだな」

 私は、俺も幸せだよ、と言って笑う彼と同じように口角を上げた。