───その時。
「ちょっと、そうす……」
ガチャッ、と音を立てて勢いよく開けられた扉。その向こう側から顔を出したのは中幡さんで、彼女は私を見た瞬間、しまった、と言わんばかりの気まずそうな表情を浮かべた。
「あー……ごめんなさい。えっと、神木部長、また後程話があるので部長室に伺います」
失礼しました、と小さく残し、中幡さんが再び倉庫から姿を消した。
中幡さんが部長のことを〝聡介〟と下の名前で呼ぼうとしていたのを私は聞き逃さなかった。私の中で疑っていた二人の間柄が、この時、確信へと変わってしまった。
「あの、私も戻ります。中幡さんのところ行って来てください。失礼しました」
唇をきゅっと噛み締めて、部長に頭を下げた私は引き止められる前にと、私は急いで倉庫を出た。
倉庫を出て、廊下を歩き続ける。数十歩歩いたところで足を止めて振り返るけれど、そこに部長はいない。
「……そりゃあ、そうか」
ぼそり、と小さく呟いた私は前を向くとまた歩き始めた。
追いかけて来て、何かちょっとくらい弁解してくれはしないかと期待してしまった自分が馬鹿らしい。
だって、神木部長はずっと私になんか興味がないし、私の好意に困っていたんだ。そもそも、中幡さんという綺麗な彼女もいるんだ。追いかけてくるわけがない。
よく考えたら分かることなのに、ちょっと期待をしてしまったのは、西内さんのついた嘘を鵜呑みにした部長が心なしか少しだけ悲しそうな表情で私に事実なのかを確認して来たから。あんな表情されたら、馬鹿な私はちょっと期待してしまうに決まっているのに、部長はずるい人だ。

