神木部長、婚姻届を受理してください!


「悪い。パソコン用のクリーナーってどこだったっけ」

 後ろ髪をかき乱しながら、苦笑いを浮かべた神木部長。

「あ、えっと、ここです」

 部長の真横に並べられていたパソコン用のクリーナー。私は、それを指差して答えると、ひとつ手にとり部長に手渡した。

「ひとつでいいですか?」

「ああ、うん。ありがとう」

 部長がそう返事をした後、二人の間には少しの沈黙が流れた。

「それでは、失礼します」

 これ以上沈黙に耐えるのも部長に気を遣わせるのも嫌で、私は小さく頭を下げた。そして、倉庫を後にしようとすると。

「……待って。そうじゃなくて」

 背後からぼそり、と聞こえた部長の声。

 私に言ったのだろうか。それとも、空耳か何かだろうか。

 確認をする為に、そっと後ろを振り返る。振り返るとほぼ同時に部長の視線が私の視線と絡まった。

「ごめん。立川。本当は、クリーナーの場所、分かってて聞いた」

「え?」

「呼び止める理由、見つからなくて。ひとつだけ、聞きたいことがあるんだけど……いいか?」

 あまりにも突然で、予想なんて一ミリだってできなかった展開。私は、部長の口から発せられたその言葉に、これでもかというほど目を開き、返事の代わりに一度だけ大きく頷いた。