「立川さん、備品棚の黄色マーカーがあと一本しか無かったからまた補充しておいて」
「あ、はい!」
ランチを終え、自分のデスクで仕事をしていると男性社員さんからそう声がかかった。
私は、キリのいいところでパソコンの画面を消すと、席から立ち上がり倉庫へ向かった。
〝1ー3 備品倉庫〟と書かれたプレートが差し込まれている部屋のドアを開けて中に入る。部屋に入ってすぐ右手にある引き出しから黄色マーカーを五本手に取った私は、備品持ち出しリストに持ち出す本数を記入した。
「よし」
リストに必要事項を記入し終え倉庫から出ようとした、その時。
ガチャ、と音を立てて倉庫のドアノブが外側から捻られた。反射的にドアから離れて様子を伺っていると、開いたドアから倉庫に入って来たのは、神木部長だった。
ドアを閉めて、やっとこちらに視線を向けた神木部長は、私を見るなり少しだけ気まずそうな表情を浮かべる。
「お疲れ」
「お疲れさまです」
神木部長は、やっぱり神木部長だ。気まずくて、本来なら言葉も交わしたくないだろう私にも、優しく声をかけてくれる。
久しぶりに部長と二人きり。本当なら、もっとずっとここにいたい所だけど、これ以上気まずい雰囲気が流れるのも嫌で、私はそっと倉庫のドアノブに手を置いた。
「立川」
「は、はいっ」
ドアノブを捻ったとほぼ同時に、後ろからかかった声。私は、思いがけない状態に驚きながら振り返った。

