「はは、そう見えますか」
笑い声の混じった部長の優しい声。この角を左に曲がればすぐそこには休憩スペースが広がっている。そこで恐らく誰かと話しているのであろう部長の声に、私はそっと耳を澄ませた。
「いやあ、そう見えるし実際にそうだろう? あんなにアタックされているのに、どうして気持ちに応えてあげないんだい」
恐らく、部長と話している相手は田口さんだった。そして、二人が話しているのはきっと私のことだと会話を聞いていて予測ができた。
私は、書類を抱えたまま耳を澄まし続ける。部長の本音を聞きたいという興味本位で、私は次に発する部長の言葉を待った。
「正直、困ってるんですよね。立川はきっと、冗談であんなことを言ってるだろうし。それに僕は、立川と一回りも離れてるんですよ。だから……」
私は、くるりと身体を半回転させると、部長の言葉を最後まで聞かずに来た道を戻った。
ヒールを鳴らしながら、いつもよりも大きな歩幅で歩いている間、瞳には涙が浮かんでいて、視界はぼんやりとしていた。

