「部長」
「ん?」
小刻みに肩を震わせていた部長が、真っ直ぐ私を見た。
「そういう冗談はいい加減にしなさい」
私は、私が部長への愛を伝える度にいつも返されてしまう部長の言葉を真似て、怒ったふりをする。部長は、瞳を三日月型にすると、またくすくすと笑い始めた。
「それは、お互い様だな」
冗談言ってないで仕事しないとな、と言いながら笑っている部長は、やっぱり、私の気持ちを冗談だと受け止めているらしい。
「仕事、戻ります」
「はい。頑張ってな」
「ありがとうございます。失礼しました」
頭を少し下げ、部長室を後にした。
私は自分のデスクに戻ると、パソコンと向かい合い仕事を再開した。しかし、ふとした瞬間に部長のことを考えてしまう。
どうして、こうも私の気持ちは部長に伝わらないのだろうか。
考えたって分かるはずのない答えと、対処方法を考え続けながら、マウスとキーボードを打つ手を動かしていく。
神木部長を好きになってから約一年、私は分かりやすく神木部長に気持ちを伝えてきたつもりでいる。
だけど、どうやらそれは一ミリも伝わってないようだし、神木部長にも脈なんて一ミリもない。
考えれば考えるほど分からなくなる私の恋の行方。段々切なくなってきてしまった私は、部屋の隅にあるコピー機まで足を運ぶと印刷スタートボタンを押して、またぼうっとし始めた。

