神木部長、婚姻届を受理してください!



「部長、おはようございます!」

 翌朝。私は、いつものように部長室に入ると、デスクで書類を整えている部長に大きく挨拶をした。

 昨日のこともあり、いつもよりご機嫌な私に部長は「何か良いことでもあったのか」と問うと、視線を書類から私に向けた。

「はい!昨日、神木部長に髪型似合ってるって言ってもらえたことと、褒めてもらえたことです」

 そう答え、口角をぐっと上げた私。部長は、そんな私のことを少しだけ呆れたような笑顔で笑う。

 そんな笑顔にすら、やっぱり私の胸はときめいて、好きだなと改めて実感してしまう。

「そうか。それなら、そんなご機嫌な立川に、今日はたくさん仕事を振ろうかな」

「たくさん、ですか……?」

「ああ、たくさん。それも、立川の苦手な会議資料作成」

「ええっ!」

 部長がにやりと意地悪に笑う。私は、事務作業の中で最も苦手としている〝会議資料作成〟という言葉に敏感に反応して顔を歪ませた。

 すると、そんな私を見てか神木部長はくすくすと肩を震わせて笑い始めた。

「嘘だよ。冗談。今日も、いつも通りでいいから」

 時々出てくる神木部長の冗談に、また完全に騙されてしまっていた私は会議資料の作成が無いことに少しだけ安心すると、頬に空気を溜め込んだ。