「ああ、プリンターのインクを探してるんだけど、なかなか見つからなくて苦戦してるとこ」
どこだったかな、と眉尻を八の字に下げて困っている様子の神木部長。私は、そんな社長の視線を辿った後、それよりも少し高くに視線を上げた。
「部長」
「ん?」
「インクジェット、部長の目の前にあります」
部長は、私の一言に目を丸くしている。
嘘だろう、と言わんばかりの表情で私を見ていた部長が再び備品の置かれた棚に視線を戻した。
「もう少し上です」
ほら、と指を指す。すると、部長は「あ、本当だ」と言ってプリンターのインクジェットを手に取った。
「まさか、こんな目の前にあったとは。いやあ、もう歳だな」
ありがとう立川、と付け足して笑った神木部長に私は「いいえ」と首を振る。
ああ、部長と二人きりの時間ももう終わりか。
そう思うと、やっぱり気分は落ち込んでいく。だけど、無駄に引き止めて仕事の邪魔もしたくないとも思う私は、大人しく倉庫を出ようと決めた。
「立川、最近機械設計の業務も手伝ってるらしいな」
足を一歩、踏み出した私に声がかかった。神木部長から次の言葉が発せられたことに、私は驚いて目を見開いた。
「よく来てる取引先の堀田さんも言ってたよ。俺が不在の間応対してくれる立川さんは愛想もいいし、いい子だって」

